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38 記憶 side 陸

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βとして生きてきた渡は、それまで当たり前に抱く側の立ち位置でしか考えて無かったはずだろう?
たかが小説読んでたぐれぇで、価値観がガラリと変わるわけねぇ。
いざ、抱かれる側だってこと実感して怯えてたのかと思って手を引いたっつーのに、なんだそりゃ。
本当に渡は分かってん・・・だよな?
他のΩに色々聞いてるみてぇだが、本当に俺がその意味で手を出して拒んでねぇのか?

渡は、顔を覆っていた手を退け短く息を吐く。


「はぁ、めっちゃ緊張してきたぁっ
陸がせっかく作ってくれたご飯も食べたかったんやけど、なんやお腹空いてたん消えてしもたわ。
あ、でも、お腹にいれて直ぐやと気持ち悪なるって聞いてたし、練習してから落ち着いてゆっくり食べた方が美味しく食べれるんかな?」


こてんと首を傾げた渡の顎を指ですくい柔らかな唇を塞ぐ。
ビクッと固まった身体をベットに押し倒し、乗り上げた。
本当に、良いんだよな?
俺は、変異種Ωになったことを嬉しがる天使としか言いようがねぇお前に、なったことを後悔する瞬間を一秒も与えたくねぇんだよ。

柔らかい手触りの前髪を撫で、頬に手を添え囁くように尋ねる。


「抱かれんのは、怖くねぇのかよ?」

「んー、正直怖いで。
だって、初めてやし、ちゃんと出来んのかなぁって誰でも怖いもんやないの?
陸は違うかったん?」


俺は、Ωとして抱かれる側に回んのが怖くねぇか聞いたつもりだが、渡は気がついてないのか行為そのものが怖い、初めてだからと言う。
俺の初めてもこれまでも、αの義務。
お前が相手じゃねぇと、ここまで慎重にもなんねぇよ。
答えようがねぇと黙った俺に、渡は口を尖らせた。


「んー、もぉ、過去のことはしゃーないけど、これからは俺だけにしてや?」

「当たり前だ」 

「練習も本番も、上手くいかんくても笑わんといてな?」

「そりゃ難しいな。
お前を番にすんのに、ニヤけんなっつー方が無理だろ」


わざとずらして返すと、渡が笑い触れた頬の強張りが緩やかに解けていくのを感じた。
俺に身を任せようとしてくれる渡が、愛しくて堪らねぇ。
牙が軋み、発情フェロモンは無ぇのにこのまま渡にむしゃぶりつきたくなる。

あー、クソッ
練習、すんだろうがっ


「渡が、一回イッたら飯にするぞ」


自分で制限を設けとかねぇと、このままなだれ込みそうだ。
分かりやすい終わりを決めると、渡は自分で脱ごうとしていたジャージから手を離し困惑した顔になっていた。


「え、そんなん直ぐ終わるから練習にならへんよぉ」

「後ろだけで、だぜ?」

「ふぁい?!」


ポカンと開いた口を封じ、舌を差し入れその根本から裏をなぞり吸い上げてやる。
逃げようとする舌を絡め、甘く噛み、渡の熱も味も歯に当たる感触も堪能してから漸く唇を離した。
伸びた唾液の糸が途中で切れ、ポタリと渡の頬に落ちた。
舌で追いかけその雫を舐め取ると、微かな味を舌で転がした。
頬を上気させ、潤んだ瞳でぼんやり見上げてくる渡の額にキスを落とす。
後ろを自分で弄ったみてぇだが、イッてはねぇんなら直ぐってことはねぇだろう。
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