ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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38 記憶 side 陸

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腕の中で、パタリと抵抗がやみ渡が大人しくなる。
見れば、素直に目と口を閉じていた。
歌って欲しいとは言われてたが、そんなに楽しみにしてたのかよ。
されんのを怖がるくせに、煽ってくるエロ天をまぁ止められんなら何でも良かったんだが。

このまんまじゃ、さっさとひんむいて無理強いしちまうのが目に見えてる。
今度は怖がられても、止める自信が微塵もねぇ。
布団で丸めたから伝わってねぇだろうが、風呂場ん時よかバキバキになってるからな。
こんな兇器が初見とか、いくらなんでも受け入れられるわけがねぇ。

・・・歌ってるうちに萎えたら良いが、こんな側にいられたら無理かもしれねぇなぁ。
ギリギリ疼く牙を宥めるように舌であやし、ゆっくりと呼吸を整える。

芝浦の妹の凛がいるグループ、七つ星のラップ「運命」

これは、菊川が学園祭終了式のステージパフォーマンスで歌うよう指定してきたヤツだ。
運命のΩを探して探して、ひたすら探して諦めきれない君に会いたいと嘆く歌。
探すことすら禁じられてる俺に、一族の事情を知っててなんて歌を歌わせんだと溜息しか出ず、かなちゃんを手に入れた菊川への羨ましさがどっしりのしかかって来たんだよな。

菊川が嫌味でわざわざ指定したとは思ってなかったし、他の曲とのバランスだろうと解釈して引き受けた。
ステージ責任者の竹居からは、俺が湿っぽいのは柄じゃねぇと好きに歌えば良いって言ってきたしな。
この世にたった一人の、俺のΩに会いたい気持ちを込めてみたらかなり乱暴な歌に変わってた。

それはそれで面白いって、生徒会室でかなちゃんや渡の目を盗んでやってたリハーサルでは竹居からは合格点。
あんまアレンジが得意じゃねぇ松野には感心され、菊川からは歌わせてるくせになんの感想もねぇ。
まぁ、後から聞いた話じゃ、菊川はすでにこんときオレとカッキーのことは聞いてたんだよな。
んで、かなちゃんが、だ。
渡の歩み寄りを全て拒絶してた俺に、日に日にイライラして渡と俺のことばっか考えて悩んで怒ってそれに時間を割いてて。
それを見るに見かね、ヒントのつもりで選んできたらしい。

歌うことで、自分のΩのことを考える時間を与えたかったんだと。
冷静に可能性を潰してけば、もしかしたらと思い当たるさってな。
自分の頭基準で考えたらしい。
残念ながら、あんときの俺にはそんな余裕は無かったけどな。

学園祭当日。
始まる前に、校門で渡の発情フェロモンに反応した俺を見て、渡と接触したかなちゃんと会わせたり、気分が悪くなって生徒会室で休むよう言ってきたりとか。
まぁ、なんだかんだと後押しはしてくれてたらしいがわかりづらい。

が、仕方ねぇ。

自分本位でも保身で調和を選ぶこともある下っ端αと違い、菊川は生まれながらの王。
自分とその番さえ良けりゃ、他は興味の対象外。
手っ取り早く俺に渡がカッキーだとバラさなかったのも、かなちゃんが渡の意思を尊重してんのにそれに反して嫌われたくなかったから。
わざわざ遠回しにかなちゃんにバレない程度に手を貸したのも、かなちゃんと自分の時間を削られたく無いだけ。

あくまで自分本位なαらしい。
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