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36 牙 side 陸

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牙を抜き、流れた血の跡を舐め回しながら足りねぇ、足りねぇと渇望する気持ちを持て余す。
もっともっと渡を味わいたくて我慢できねぇ。
一度灯った炎はメラメラと身のうちを焦がし、理性を簡単に溶かしていた。

狭間を探っていた指が窪みに引っかかり、漸く場所を探し当てる。
ココにぶち込んでたっぷり俺のでマーキングしねぇと。
背後から腰を揺さぶり、何度もここに牙を突き立ててやろうと刻んだ跡を舌でなぞりながら口角が上がる
もう、そのことしか考えられねぇ。

渡が何か訴えているのは目に見えていたし耳にも入っていた。
が、心には響かねぇ。
それでも、傷付けたくないと常々考えていた気持ちは残っていたんだろう。
固く閉じた入口なら、これくらいは。
そう無意識ながら力を調整し、ソコに指を差し込んでいた。

ヌププ・・・

湿った肌と残っていた水滴だけではない何かに助けられ、軽い力だけで人差し指の第一関節まで楽に潜り込んでいく。
温くて絡みついてくる肉壁は、拒むことなく受け入れうねって出迎えていた。
指から伝わる感触は、無我夢中で貪ろうとしていた気持ちにヒヤリと冷水をかける。

は?
なんでこんなに緩いんだ?
女ほどじゃねぇが、初めてのような頑なさがねぇ。


「ふぇえっ
ホンマに、タンマやぁっ」


渡は僅かな異物を取り込んだ身をブルリと震わせ、その場から逃げようと力強く床を蹴り上げた。
その身体が一気に傾き、俺の方へ体重がかかる。
咄嗟に抱え直したが、一度崩れたバランスを立て直せはしなかった。

たたらを踏んで一歩ニ歩と下がったふくらはぎが、浴槽の縁に当たり、すくわれ、背後から倒れる。
あっと思ったときにはもう遅く、派手な水音とブクブクと泡立つ水面としがみついてくる怯えた渡の顔。
俺は、暴走の末間抜けにも風呂に落ちていた。



『まだ、風呂にすんなり入れへんねん』
いつだったか、渡が恥ずかしそうに漏らしていたよな。
真っ先に頭を過ぎったのは、恐らくあの日、川で溺れたせいで水を怖がるようになってしまった渡の言葉。
全力で首に巻き付いてくる腕をどうにか外し、水深は膝下しかねぇのに俺にしがみついているせいで逆に溺れている渡の胸を先に押し上げ俺も水面の上に顔を出した。
渡は呼吸を止めるのが遅れたらしく、ゲホゲホとひどく噎せている。


「大丈夫か?
とりあえず、出たほうが良いか?」


背中を擦ってやりながら、浸かったままじゃ落ち着かねぇだろうと思って声を掛けたんだが。
咳き込む渡は、ジワリと目に涙を溜めたまま首を振り、全身を引つらせてままならない呼吸を繰り返していた。
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