ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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36 牙 side 陸

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番になることがどういうことなのか、本当に理解してんのかね?

渡を前に、何度も心ん中で繰り返してるこの言葉。
口に出せば現実との乖離に途方に暮れそうで、渡を怯えさせたくねぇのもあるからあやふやにしてきたんだが・・・土壇場で拒否されるくれぇなら、ここらで腹を括って擦り合わせといた方が幾分安全かもしれねぇな。
その差がわかれば、それに見合った何かしらの策を講じて最悪の事態は避けられるかもしれねぇし。


「ほんなら、タンマ。
タンマ、な?」


俺が考え込んでる間に、渡はモゾモゾと俺の下から逃げだしてソファーの上によじ登っていた。
座らずに膝を立て、腰を浮かせたままシャツを引っ張って濡れた場所を目隠し。
恥ずかしそうに俯いて尋ねてくる。


「服、着替えるついでに、俺、お風呂入ってもええかな?」

「掃除はしてるっつってたけど、軽く流して湯を入れてきてやるよ」


立ち上がるついでにクシャリと下がったまんまの頭を撫でる。
擦り合わせるより、歩みよんのも手、か?
渡の頭ん中いっぱいに詰まった恋愛脳。
コイツは、今まで頼子さん厳選の恋愛小説を読んで来たからこの状況を受け入れてんだもんな。

渡がカッキーだとわかってから、千里さんには渡のことをどんなときも重んじるだぞと重ね重ね言い渡されている。
笹部のαが今まで相手を軽んじてきたかと言えばそんなわけねぇんだが、実際Ωにされた千里さんに言わせるとまだまだ足りないらしい。

恋愛小説の内容は、すんげぇ甘ったるくて俺の一族じゃ考えられねぇことの連続。
こんなもん出来るかと投げ出すのは簡単だが、現実を突きつけて「こんなん無理や」と拒まれたくねぇ。
かと言って、ツラツラ甘い言葉を吐けるかと言われりゃそれはこっちが無理だ。
渡が風呂に入ってる間に、なんか雰囲気だけでも・・・そうだな。
そこらの花でも部屋に飾ってみるとか、俺に出来ることを試してみるか。
ここには、最低限の生活用品と持ち込んだリュックや鞄しかねぇ。

頭を切り替えそのまま風呂場に向かおうとしたんだが、そっちに身体を捻る前に「ひやぁっ」と裏返った声を出される。
は?
虫か蛇でも入ってきたのか?
駆除するために渡の視線の先を辿ろうとしたんだが、俺の手の下で真っ赤に染まった渡の顔も奇妙なら、その目が俺の腰に釘付けになってんのも奇妙だった。

・・・ん?


「お前・・・見たのか」

「ヒョワッ!!
みみみっ、見てしもたぁっっ」


渡はシャツを握り締めていた手を離し、ボボボッと真っ赤に染まった顔を抑えていた。
服が乱れてたから、立ち上がった拍子にシャツの下から張り出していたパンツが覗いたのか。
アレコレ考えてる間に多少は萎えていたが、抱かれようとしてた渡にはキツイだろう。

・・・歩み寄る前にやらかしたな。

こんな至近距離で見間違いもねぇし、記憶から消すことも出来ねぇ。
言葉を掛けるにも、適当なもんが咄嗟に思いつくわけもねぇからな。
気不味いまま、風呂場に行こうとしたんだが。


「こんなに大きくなんの?!
普通のときでも十分大きいって思っとったのに、小説の通りや!!」


興奮した渡にシャツを捲られ、頭が真っ白になる。
何をされてんのか驚いて固まったのが先だが、耳に入ったそのセリフの意味がわかると同時に額にピキピキと青筋が浮き顔が引きつる。
・・・俺はお前の前で裸になったことはねぇよな?
一体誰と比べてんだ?!
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