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36 牙 side 陸

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「心配せんくても、恋愛給餌特化型のことはぜーーったいにバレへん作戦が俺にあるねん。
そんな怖い顔せんでも、大丈夫やで」


得意気に笑う渡。
眉間のシワを指で優しく撫でられ、こちらもつられて笑う。
んー、まぁ、それも心配ではあるんだが、な。
渡の作戦の内容が何でどんな結果になっても、俺がなんとかすりゃいぃことだ。


「頼りにしてるぜ」


ポンポンと、軽く頭に手を乗せる。
今は、コイツを他のαや女子に奪われねぇことが優先だ。
どうせ、桂木はここまで来れねぇ。
渡が俺を見て一瞬固まったように思えたが、オレンジジュースの入ったグラスを震わせながら俯いて飲み始めた。
氷は入れてねぇんだが、冷たすぎたのか?
その割に、耳朶が赤い・・・この部屋が寒いのか?
温度調節は出来てるはずだが・・・

気遣う気持ちは、次の瞬間、霧散した。

コクン、コクンと、渡が喉を鳴らして俺が与えたオレンジジュースを目の前で飲んでいく。
途端に、下腹に燻るような熱が籠もり、ゾクゾクと背筋が震えて牙がギシギシ軋みながら伸びるのがわかった。
あぁ、やべぇ。
このまま押し倒して、その口内に残ってるオレンジジュースを直接啜りてぇ。

強烈な色欲混じりの渇望に、無意識にゴクリと喉が鳴っていた。


「あ、こ、これ、陸と半分こやったん?」


俺の喉が乾いているのだと思ったのか、渡がハッとこちらを見ようとしたから慌てて目を逸らした。
やべぇ、やべぇ。
こんな出だしっからサカッてどーすんだ。
目と唇を固く閉じ、牙を隠し、気を散らす。

ここに戻ってきて、半時間も経ってねぇ。
散々千里さんにも釘を刺されてんだ。
落ち着け、落ち着け。
親父に折角ここまでお膳立てしてもらってんのに、襲いかかって渡を怖がらせ、速攻拒否され家に帰るとか有り得ねぇぜ。

番にならずに帰れば、千里さんは「無理強いしなかったようだな」と安心するだろうが、渡がフリーのΩだとそのうち周囲にバレる危険性が高くなる。

千里さんに言われるまでもなく、渡に番を無理矢理強いるつもりは毛頭ねぇ。
けど、俺としてはここで番になっておきてぇ。
焦って手を出せば、この好機をみすみす逃すことになる。


「いや、渡の分だ。
けど、一口だけ貰うな」


差し出された渡の手から、グラスを直接受け取り口をつける。
今の俺は、薬で鼻が利かねぇから、オレンジジュースそのものは飲んでも美味く感じれねぇ。
けど、それは、一口含んだだけで泣きたくなるくれぇの感動を俺に与えた。

渡から食べもんを貰うのは初めてじゃねぇ。
俺のΩだとわかってから貰ったキャラメルはもちろん、他のもんも・・・どれも、その都度確かに気持ちが満たされていたんだが。

このオレンジジュースは段違いだった。

今までとは別格の多幸感が広がり、じわりと視界が涙で霞む。
ここまで強く胸に迫ってくるもんがあるのは、渡がこの場に俺の番になるために一緒に来てくれてるから、だろうな。

これが、俺の血なんだな。

飲み込んだ途端に不安や焦りに逆立ってた気持ちが満たされ、ふわりとその場で身体ごと浮いたような錯覚さえしてくる。

今まで、呪い、嫌うことさえあったってのに。
バカバカしいくらい、価値観がゴロッと俺の中で変わっていた。

あぁ、くそっ
渡を手に入れることが出来るこの血に、感謝さえしてしまってるじゃねぇかっ
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