ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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36 牙 side 陸

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俺達の帰りを待ち構えていた株元に、あれもこれもと晩飯のお裾分けが入ったタッパを渡された。
俵型のおにぎりにきんぴら、おひたしに佃煮にバーベキューで残った焼いた肉と野菜・・・容器の大きさはバラバラだったが、その数は10を超えている。
どう見積もってもこの量じゃ、今日は渡に俺の料理を振る舞うのは諦めるしかねぇな。
渡はその場でいくつか蓋を開け、どれも美味しそうだと嬉しそうにしていた。
俺が食べさせたいってだけで、コレを後回しにすんのもなぁ。

ソファーとローテーブルの間に腰を下ろし、ちょこんと膝を曲げ座っている渡を振り返る。
渡は、ログハウスに帰ってくるなり、置きっぱなしだったスマホをカバンから取り出してラグに座ったまま動かねぇ。
表向きは、俺は家の都合、渡は急な検査入院で休むことにしてなっている。
心配した友達から連絡でも入ってんだろう。

画面に夢中になってる顔色に変化はねぇ。
発情期がすぐに来るようには見えねぇな。
まぁ、時間はまだあるんだ。
焦る必要はねぇと自分に言い聞かせる。

タッパを冷蔵庫の隙間に詰めたついでに、家から持ち込んでおいたオレンジジュースのペットボトルを取り出す。
クラスの学園祭打ち上げで貰ったヤツだ。
作り付け食器棚からグラスを一つ取り出して注ぐと、渡に近付いた。


「飲むか?」

「ひゃっ、あ、ありがとう」


俺に気付いてなかったらしく、驚いた渡はビクッと体を震わせた。
どんだけ集中してたんだ?
正直、俺としてはスマホなんざ目のつくとこに置いてほしくもねぇんだが。
どうやら顔にもそれが出たらしい。
渡は気まずそうにスマホをローテーブルに置いてからグラスを受け取った。

こんな顔させてる場合かよ。


「検査入院を心配して、連絡が来てんだろ?」

「うん、そやねん。
あ、でもな。
かなちゃんから、クラスの子に入院中は返信は出来ないだろうって言ってくれてん。
そやし、それを聞いたおんなじクラスやない子も返信不要やって言うのがほとんどやし、かなちゃんにはキリがないし、それにボロが出たらあかんから返したらあかんて言われてるねん。
やり取りしてるんは、かなちゃんやみこちゃんらと作ってるグループのんと、学年も部活も違うから事情がわからんくて心配してくれてた桂木君だけやで」


・・・桂木、ねぇ。

ドカッと渡の隣に腰を下ろした頭に、学園祭前に直接やりあった日のことや、当日渡と二人で食べ歩いていた光景が一気に蘇る。
渡がβだと知っても、なんの躊躇いもなく告白してきたα。
真正面から菊川の群れに接触してきて、渡への接近許可まで取り付けた。
もしも、先に渡がΩだと知られていたら・・・


「桂木君、めっちゃ心配して休憩時間にも昼休みにも電話くれててな。
昨日家に荷物の準備で帰ったときに、ちょっと話してん。
あ、でも、ほんまのことは話してへんで??」


渡は、空いた手で俺の眉間に触れてきた。
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