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35 準備 side 渡

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去り際、何度も振り向いてくれた千里さんとおとんに両手を大きく振り返して、三人の背中が完全に見えへんなるまで見送ると・・・静まり返ったこの場所にいるのは、俺と陸だけになった。

い、いよいよ、陸と二人や。

おとんと離れて、取り残されたような寂しい気持ちもあってんけど。
それに、ドキドキの緊張がバッサーッと被さってきたから思わず胸を押さえた。
いつになるかはわからへんけど、この柵の向こう側に俺が出ていくときは、陸と番になったとき。
そう思ったら、この柵見てるだけで心臓が痛なるわ。

俺が変異種Ωやってわかってから、かなちゃんにはΩにとって番は一生ものの特別なことだからよく考えるようにっていっぱい言われてきたし。
陸だけやなくて、俺が心変わりする日が来ても相手を変えられないんだぞって怖い顔で言われたときもあってんけどな。
菊川君とめちゃめちゃ愛しあってるかなちゃんに言われても説得力無いし、そんときは思わず笑ってしもて怒られたなぁ。

確かにこれから先、おとんやおかんみたいに小さいのから大きいのまで喧嘩することもあるやろうし、もしかしたらかなちゃんが言うみたいな日がくるかもしれへんけど・・・陸以外のαに、ここを噛んでほしいって思うことは絶対に無い。

それは、βから変異種Ωになった俺やからわかることや。

目を閉じても解除できるようになった水色の番避けを首から外す。
すると、俺の気がすむまで戻るんを待ってくれてた陸が隣で息を飲む音が聞こえた。

陸やから、噛んで欲しい。
陸やから、Ωになったことも嬉しいと思える。


「おい、なんで外し・・・」

「ここに預けとくな」


陸の言葉を遮って、近くの柵の格子に巻き付けてカチリと嵌めてしまう。
着けてても全然違和感無かったけど、外したら気持ち軽くなった気がするなぁ。
開放された首を擦ってたら、陸から怒られた。


「このアホッ、何考えてんだっ」

「アホて、酷い。
もう必要ないし外しただけやで?
もう、ここには陸しかαは居らへんし、鋼さんは不法侵入してくるαはいぃひんから安心しろってお昼に言ってはったやん」

「そういう問題じゃねぇ。
これをしてる限り、お前は保留にしとけるんだぞ」

「俺、保留になんてする気無いもん」

「そんなの、いざとなったら分からねぇだろうが。
・・・俺は、千里さんに誓わされたからじゃなくて、お前に無理強いは本当にしたくねぇんだよ」


この番避けの解除の仕方は、説明書も持ってきてへんから俺にしか分からへん。
陸は、番避けを手に取って引っ張ってんけど柵がギシッて音を出すだけでそれ以上はビクともせぇへん。
番避けって、αの牙が通らへんようにめっちゃ頑丈に作られてるんやて。

陸は、番避けにロックがかけられてることを確認したからやろな。
弱りきった顔で俺を見下ろした。
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