ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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35 準備 side 渡

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合流してから株元さんとは別れてな。
里山の周りをぐるっと囲んでる柵の出入り口まで、帰る三人を見送りに行ったんやけど。

心配性な千里さんは、俺とおとんの前を歩きながら隣の陸にずーーーーーっと注意事項らしきことを言いまくってた。
陸が相槌打ってんのが見えんねんけど、気が無いのを返したらパシンッて頭叩かれててな。
めっちゃ痛そうやった。
その間先頭の鋼さんは、振り返ることなく空のクーラーボックスを肩にかけて鼻歌を楽しそうに歌っててん。

俺とおとんは、んー、言葉に詰まってしもて。
俺は、今度いつ会えるんかも分からへんし、聞いときたいことがあったら言わな、言わなって焦ってしもてて。
おとんは、そんな俺の横顔を黙ってみてくれててん。

握った掌の大きさがな。
昔とちごで、あんまり変わらへんくて。
そんなんに別れ際に気付いたら、なんや、切なくなってしもた。
柵が見え始めて、あとちょっとやなってわかったら益々切なくなってしまうやん。
ギュッと握ってる手に力を込めて、不安そうにしてるおとんを笑顔に出来る言葉を探す。


「あんな、おとん」

「うん?」

「俺な、すっごく陸のこと好きやってこと、Ωやってわかってから自覚したんやけどな」

「うん」

「Ωで良かったなぁって、思ってまうくらいの好きやしな」

「うん」

「引っ越しのとき、ここに連れてきてもろてて良かったなぁってほんまに思ってんねん。
もし、ここに来てへんかったら、茅野学園にも通えてへんやん?
かなちゃん達にも会えてへん未来があったとか、そっちの方が寂しいねん」

「・・・うん」

「小学生のとき、ここに、連れてきてくれてありがとう。
めっちゃ心配させてたのに、俺、この状況を嬉しがってしもてるけど。
嬉しがれてんのも、いっぱい俺が気ぃついてへんところで支えてくれてたからやって今ならわかる。
ほんまに、ほんまに、ありがとうっ」


笑顔で感謝した俺に、最後、黙って頷いてくれたおとんは笑ってくれてた。


「陸っ、くれぐれも無理強いはするなよっっ」

「わかってるって」

「絶対だぞっ」

「牙に誓って、絶対に無理強いはしません」


柵の前まで着いても、千里さんの注意事項がまだまだ終わらへんからやろな。
陸は、右手を上げて宣誓までしてた。
その顔は、ギューギューにいろんなこと言われ過ぎてげんなりしてたわ。

千里さんは、最後にそっと壊れもん扱うみたいに俺を優しく包んでくれて、「無理だと思ったら、迷わず抑制剤を使うように」って。
その声は、陸相手のときとは別人みたいに優しくて温かかった。
離れたとこで見守ってくれて鋼さんは、「今度はゆっくり喋ろーな」って手をヒラヒラ振ってくれて。
黒いマスクをしてても、笑ってくれてんのがわかった。
おとんは、「あまり遊び過ぎないようにね」ってのんびり微笑んでくれた。
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