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35 準備 side 渡

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里山には20世帯くらいの人が住んでるんやけどな。
俺らが里山に着いた時には、中央にある管理人さんが住んでる家の前に全員が集まってくれててん。
去年の夏に来たとき、挨拶したことがあった管理人の株元 公平(かぶもと こうへい)さんが、俺らのことを住んでる人に紹介してくれてな。
夏に俺らを泊めてくれた家の人もいたから、おとんが何度もお礼を言ってた。

それからな。
ちょうどお昼ご飯の時間帯やったし、前もって準備してくれてたみたいでその場でバーベキュー大会が始まってん。

住んでる人と株元さんが火ぃ起こして網も温めてくれてたし、畑から採りたての野菜とか、鋼さんが持ってきてたクーラーボックスから次々出てくる肉とかエビとかホタテとかを俺ずーっと食べてた。
食べ終わりそうになったら、陸が次々持ってきてくれるし、飲みもんまで無くなる前に注いでもらえるし、俺、ずーっと座ったまんま。

片付けくらいは手伝おうと思ってんけど、皆からやんわり断られてしもた。


「俺、何もしてへんからなんかしたい・・・」


住んでる人は帰ってしもたけど。
鋼さんは、この家の裏に回って炭の後始末してるし。
おとんは、外の水道で網を洗ってるし。
千里さんと陸は、この家の台所で洗い物。
株元さんは、家の前の使ってた椅子と机を慣れな手付きで片付けてく。
せやのに俺は、荷物の番をしててって千里さんから言われてな。
軒下で座ってるだけやで?
ソワソワするやんかっ


「いやいや、社長からは大切なお客様だって聞いてるから逆に手伝って貰ったら俺が怒られちゃうよ。
今回は、滞在長いんだよね?
学校は、大丈夫なの?」

「お休みの届けは出してるし、大丈夫」


株元さんは、気をつこて片付けながら話しかけてくれる。
俺、邪魔しかしてへんやん・・・黙っといた方がえぇかなぁって思ったんやけど。
株元さん、気軽に話しかけてくれるしで気ぃついたらお喋りずーっとしてた。

言うても、なんで来たとか、陸の家のことは言えへんしな。
聞く方が多かってんけど。

株元さんは、鋼さんが社長してる不動産屋さんで働く会社員。
まだ28歳やねんて。
ここには若手β社員限定の住み込み研修に来てて、この里山の管理を一手に引き受けて二年目。
基本土日休みらしいけど、周りにはなんにもないしなぁ。
車もバッテリーが上がるから置いとけへんし、もし最寄り駅とか街に行きたいときは事前にタクシー送迎とか社用車を回してもらうしかないんやて。

でも、心構えをしていた以上に不自由やなぁって思うのは最初だけ。
里山から出ぇへんことが当たり前になってきて、こんなのんびり暮らしながら給与まで貰えるとか最高ってなるんやて。
住んでる人がお裾分けしてくれるご飯食べて、屋根とか簡単な水回りの修理から、畑や薪割りの手伝いもしてるとめっちゃ健康。
ここに彼女がいれば最高なんだけどなぁって、ボヤいてはった。

期間は、半年更新で最長三年間。
競争率も高いし、三年間めぇいっぱい住む人が多いらしい。
株元さん、ここに来る前には営業してたんやけど、ここが良すぎて元の暮らしに戻るのは辛いだろうなぁって話してたときにな。
ちょうど鋼さんが戻ってきてしもて。
株元さん、めっちゃアワアワ「え、営業所に戻っても頑張れますっ」って力説するから笑ってしもた。
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