ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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35 準備 side 渡

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怒られた鋼さんが、「ちーちゃん、ごめん~」って千里さんに抱きつこうとしたんやけど。
千里さん、まるで背中に目があるみたいに振り向かんでもヒラリと避けてな。
こっちまで走ってきはってん。
そのときには、何事もなかったみたいにいつもの千里さんに戻ってて。
車から荷物を降ろすん手伝ってくれてん。

って、言うてもなぁ。
車に積み込んでたんは、俺の着替えが入ったカバンと、里山にいる間に陸と見ようと思ったアルバムとかとかが入ったリュックの2つ。
一人で持てる範囲にしようって、無理矢理2つに分けたしな。
一個一個がパンパンに膨らんでる。
それを、千里さんがカバン、陸がリュックって二人で当たり前みたいに持ってくれてん。


「あの、持ちますよ??」

「お、俺も持つで?」

「いえ、荷物はこちらで持ちますよ」

「気にすんなって。
千里さんは元αで体力あるし、俺の荷物は親父が先に持ち込んでてくれるから手が空くしな」


俺もおとんも持とうとしたんやけど、ささっと千里さんは鋼さんのとこに戻って行かはるし。
陸は、最後尾を歩くからって、先に歩くよう促してくるしな。
鋼さんに俺から近寄るわけにも行かへんし、陸は持たせてくれる気がないのわかったし。
言葉に甘えて、おとんと二人で里山につくまで並んで歩いてん。

家ではおかんがいーっぱい喋るし、おとんとこんなにゆっくり話したんは初めてかもしれへん。
昔、ここに連れて来られた日のこととか。
病院に搬送されて熱でうなされる俺を見たときのこととか。
俺から抜け落ちてしもてる記憶を、おとんは隣で歩きながら丁寧に教えてくれた。

途中、川の脇を歩くときはやっぱり怖くてな。
おとんに手を繋いで貰っててん。
それを後ろから陸に見られてるんかと思うと、ちょっと恥ずかしかったなぁ。

テクテク歩いて里山に着くと、去年の夏に来たときとは風景が違ってた。
田んぼの稲は刈取られてるし、周りを囲む山々はところどころやけど紅葉し始めてる。
吹き抜けてく風も涼しくて、初めて来た場所みたいな印象や。

敷地入ってからは、おとんに今度は俺から話す番やった。
夏にあそこでバスケしたとか、俺は参加してへんけど皆はこの川でで釣りしてたとか。
泊まらせて貰ってたとこはあそこって家を指したときは、柿崎のじぃちゃんが借りてたところやって逆に教えて貰ったりもしたわ。


「渡は、ここで楽しく過ごしてたんだねぇ」

「うんっ
めっちゃ、楽しい夏休みやったでっ」


俺が即答したら、おとんはホッとしてた。
おとんにとっては、預けんかったら良かったって悔やんでた場所・・・俺には想像つかへん燻り続けてた感情を、静かに眠らせてるみたいな横顔やった。
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