835 / 911
34 準備 side 陸
19
しおりを挟む
「あのバカが言い出したんだな」
隣で千里さんが絞り出した声は、怒りを隠しきれずに震えていた。
抑えきれない苛立ちが溢れたらしく、バシッと下げていた頭まで叩かれる。
「陸、それは却下だ。
お前達二人では、まだ心許無い」
「え、え、千里さん、千里さん。
俺、行きたいんやけど・・・」
「ここで番になってからいくらでも行けば良い。
手放す予定もない土地だし、このタイミングで急いでいく必要は無い」
渡が相手だと、千里さんの声は強くも出れず、かと言って、認める気は無いから優しく諭す。
この場に親父がいれば、千里さんを丸め込んでもらえるんだが・・・居ねぇもんに頼るようじゃな。
俺は、千里さんの尤もな意見に里山行きを諦め頭をあげたんだが。
「千里さん、逆やでっ」
劣勢の俺に加勢してくれたのは、渡だった。
渡は、わざわざ机を回り込んでこちら側に来ると千里さんの両手を取りグイッと息が掛かりそうな至近距離まで顔を近づけた。
うっとりと夢見る瞳は、菊川とかなちゃんのやり取りにキャーキャー喜んでいたところを見慣れている俺にはまたかと思わせるもんだったが。
千里さんには未知の領域への第一歩。
「俺と陸が初めて会った場所で番になれるんは、今しかないねんっ
番になってからやったら何回でも行けるのとは比べられへんくらい貴重な一回やでっ」
「・・・は?」
理解し難い千里さんに、三枝は憧れと情熱を背負って勢いよく畳み掛ける。
「番の先輩、鋼さんと番になった千里さんやったら絶対俺よりわかるやん?
だって、Ωが番になるんは一生に一度きりしかないんやで?
確かに、千里さんにまだ教えてもらえてへんこともたくさんあるし、俺も陸も高校生やし心配させてしまうけど。
でも、でもな?
特別な日を思い出の場所で迎えられるなんて・・・ほんまに凄いっ」
なっ、なっと同意を求められても、千里さんは戸惑うばかり。
自分の感動がわかってもらえると思っていた渡にとって、その反応は何かのブーストを加速させるには十分だったらしい。
渡というより、頼子さんの蔵書の恋愛小説を例えに出しての熱弁が始まってしまう。
こうなると、しばらく止まらねぇよなぁ。
姿勢を崩した俺は、道成さんと頼子さんの様子が気になり伺うと。
興奮しながら自分と俺が番になる日のことを嬉々として語る息子を諦めたように、でも優しく見つめていることに・・・感謝しかねぇ。
この二人だったから、渡が俺の側にいてくれることは疑いようもねぇ事実だ。
こうやって、いろんなことを諦めながら、渡が笑っていられるようにしてくれてたんだよな。
このあと、渡の迫力に完全に押された千里さんは里山行きを許可。
荷物の準備に席を立った三人を見送り、疲れ切った顔の千里さんに「ありがとう」と礼を言おうとしたんだが。
「・・・あの子は本当に凄い子だな」
しみじみと呟いたその横顔は、羨ましいと語っているようで黙って頷いて終わった。
隣で千里さんが絞り出した声は、怒りを隠しきれずに震えていた。
抑えきれない苛立ちが溢れたらしく、バシッと下げていた頭まで叩かれる。
「陸、それは却下だ。
お前達二人では、まだ心許無い」
「え、え、千里さん、千里さん。
俺、行きたいんやけど・・・」
「ここで番になってからいくらでも行けば良い。
手放す予定もない土地だし、このタイミングで急いでいく必要は無い」
渡が相手だと、千里さんの声は強くも出れず、かと言って、認める気は無いから優しく諭す。
この場に親父がいれば、千里さんを丸め込んでもらえるんだが・・・居ねぇもんに頼るようじゃな。
俺は、千里さんの尤もな意見に里山行きを諦め頭をあげたんだが。
「千里さん、逆やでっ」
劣勢の俺に加勢してくれたのは、渡だった。
渡は、わざわざ机を回り込んでこちら側に来ると千里さんの両手を取りグイッと息が掛かりそうな至近距離まで顔を近づけた。
うっとりと夢見る瞳は、菊川とかなちゃんのやり取りにキャーキャー喜んでいたところを見慣れている俺にはまたかと思わせるもんだったが。
千里さんには未知の領域への第一歩。
「俺と陸が初めて会った場所で番になれるんは、今しかないねんっ
番になってからやったら何回でも行けるのとは比べられへんくらい貴重な一回やでっ」
「・・・は?」
理解し難い千里さんに、三枝は憧れと情熱を背負って勢いよく畳み掛ける。
「番の先輩、鋼さんと番になった千里さんやったら絶対俺よりわかるやん?
だって、Ωが番になるんは一生に一度きりしかないんやで?
確かに、千里さんにまだ教えてもらえてへんこともたくさんあるし、俺も陸も高校生やし心配させてしまうけど。
でも、でもな?
特別な日を思い出の場所で迎えられるなんて・・・ほんまに凄いっ」
なっ、なっと同意を求められても、千里さんは戸惑うばかり。
自分の感動がわかってもらえると思っていた渡にとって、その反応は何かのブーストを加速させるには十分だったらしい。
渡というより、頼子さんの蔵書の恋愛小説を例えに出しての熱弁が始まってしまう。
こうなると、しばらく止まらねぇよなぁ。
姿勢を崩した俺は、道成さんと頼子さんの様子が気になり伺うと。
興奮しながら自分と俺が番になる日のことを嬉々として語る息子を諦めたように、でも優しく見つめていることに・・・感謝しかねぇ。
この二人だったから、渡が俺の側にいてくれることは疑いようもねぇ事実だ。
こうやって、いろんなことを諦めながら、渡が笑っていられるようにしてくれてたんだよな。
このあと、渡の迫力に完全に押された千里さんは里山行きを許可。
荷物の準備に席を立った三人を見送り、疲れ切った顔の千里さんに「ありがとう」と礼を言おうとしたんだが。
「・・・あの子は本当に凄い子だな」
しみじみと呟いたその横顔は、羨ましいと語っているようで黙って頷いて終わった。
1
お気に入りに追加
1,441
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載


【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。


欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点


偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる