ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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34 準備 side 陸

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「あのバカが言い出したんだな」


隣で千里さんが絞り出した声は、怒りを隠しきれずに震えていた。
抑えきれない苛立ちが溢れたらしく、バシッと下げていた頭まで叩かれる。


「陸、それは却下だ。
お前達二人では、まだ心許無い」

「え、え、千里さん、千里さん。
俺、行きたいんやけど・・・」

「ここで番になってからいくらでも行けば良い。
手放す予定もない土地だし、このタイミングで急いでいく必要は無い」


渡が相手だと、千里さんの声は強くも出れず、かと言って、認める気は無いから優しく諭す。
この場に親父がいれば、千里さんを丸め込んでもらえるんだが・・・居ねぇもんに頼るようじゃな。

俺は、千里さんの尤もな意見に里山行きを諦め頭をあげたんだが。


「千里さん、逆やでっ」


劣勢の俺に加勢してくれたのは、渡だった。
渡は、わざわざ机を回り込んでこちら側に来ると千里さんの両手を取りグイッと息が掛かりそうな至近距離まで顔を近づけた。
うっとりと夢見る瞳は、菊川とかなちゃんのやり取りにキャーキャー喜んでいたところを見慣れている俺にはまたかと思わせるもんだったが。
千里さんには未知の領域への第一歩。


「俺と陸が初めて会った場所で番になれるんは、今しかないねんっ
番になってからやったら何回でも行けるのとは比べられへんくらい貴重な一回やでっ」

「・・・は?」


理解し難い千里さんに、三枝は憧れと情熱を背負って勢いよく畳み掛ける。


「番の先輩、鋼さんと番になった千里さんやったら絶対俺よりわかるやん?
だって、Ωが番になるんは一生に一度きりしかないんやで?
確かに、千里さんにまだ教えてもらえてへんこともたくさんあるし、俺も陸も高校生やし心配させてしまうけど。
でも、でもな?
特別な日を思い出の場所で迎えられるなんて・・・ほんまに凄いっ」


なっ、なっと同意を求められても、千里さんは戸惑うばかり。
自分の感動がわかってもらえると思っていた渡にとって、その反応は何かのブーストを加速させるには十分だったらしい。
渡というより、頼子さんの蔵書の恋愛小説を例えに出しての熱弁が始まってしまう。

こうなると、しばらく止まらねぇよなぁ。
姿勢を崩した俺は、道成さんと頼子さんの様子が気になり伺うと。
興奮しながら自分と俺が番になる日のことを嬉々として語る息子を諦めたように、でも優しく見つめていることに・・・感謝しかねぇ。
この二人だったから、渡が俺の側にいてくれることは疑いようもねぇ事実だ。
こうやって、いろんなことを諦めながら、渡が笑っていられるようにしてくれてたんだよな。

このあと、渡の迫力に完全に押された千里さんは里山行きを許可。
荷物の準備に席を立った三人を見送り、疲れ切った顔の千里さんに「ありがとう」と礼を言おうとしたんだが。


「・・・あの子は本当に凄い子だな」


しみじみと呟いたその横顔は、羨ましいと語っているようで黙って頷いて終わった。
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