ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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34 準備 side 陸

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渡が焼いたマロンケーキは、ちょうど収穫時期だった庭の栗を使ったもの。
小皿に取り分けられるものとは別に、両端の切り落としと余りがまな板に残っていた。
ペースト状にした栗がパウンドケーキに練り込まれていて、マーブルの断面を見ているだけでも美味そうだ。
嗅覚が効かねぇのがもったいねぇな。

我慢出来ず、ヒョイッと端の一枚を摘んで口に入れる。
口の中に広がる栗の香りに目を細め、堪能しようとしたんだが。
「行儀が悪いっ」と眉間にシワを寄せた千里さんから睨まれた。

だが、美味い。 
舌に絡みついてくる栗の甘みを、ブランデーでも入ってんのか独特の苦みが引き立たせる。

渡が作ったケーキがこんだけ美味ぇと、過去の自分をぶん殴りに行きたくなんな。

食べ損ねたチョコレートケーキは、後輩αの桂木に食われ。
焼き菓子の詰め合わせは、従姉妹の岬に食われ。
渡のことを疑い、傷つけ、そうさせたのは俺だってぇのに、横取りされたみてぇにムカついてくる。
なんであのとき他のαに譲ってんだ、あほか俺はっ

ガシガシ頭を掻いている間に、千里さんは人数分のケーキの用意を終え、まな板に残っていたケーキを皿に移してラップを掛けると冷蔵庫に保管。
テキパキとお茶の用意も済ませ、ケーキが載った方の盆を持つように指示してきた。
運びながら千里さんの背中を追って廊下に出る。

千里さんのことだから、いつ発情期が来ても良いようにスタートダッシュの詰め込みスケジュールで渡を追い込んでやしねぇかと心配してたんだが。
渡がこれを焼いてるってことは、そうでも無かったのか。


「ケーキやらアルバムやら、渡は楽しんでるみてぇだな」

「渡君への教え方を再考する必要があることはすぐにわかったのもあるが・・・これからしばらくマンツーマンが続くんだ。
初日から苦手意識を持たれては、今後にも響く。
コミュニケーションの一環だ」


眼鏡をきらりと輝かせ、振り返った千里さんは不敵に笑う。
千里さんなりに、渡に合わせたやり方を模索してくれてんのか・・・
眼鏡の奥の藍色の瞳は、Ωや番についてどう渡に教えていこうかとやる気に満ちて燃えていた。
この人は、目の前の道が困難であればあるほど正面突破に燃えるとこがあるからな。
道を無視して、猪突猛進と寄り道を気ままに繰り返す親父とは全然違う。
この顔を見ちまうと、明日から連れ出すとか・・・益々言いにくいじゃねぇーか。

前途多難だと漏れそうになった溜息は心の中に留め。
客間に緑茶とケーキを運び、虫の音に耳を傾けながら頼子さん中心の話を聞き流し索を練る。

練ってはみたものの・・・どう言い繕おうが、千里さんのやる気を削ぐことになる。
千里さんに怒られるのは決定事項だと諦め、話の切れ目に割り込むことにした。


「今後の提案なんだ・・・ですが」


つーか、親父からの遂行命令なんだがな。
千里さんには怒られ慣れてるのもあるし、ターゲットを三枝家に絞って前だけを見る。


「俺と渡を、あの出会った里山に明日から二人で行かせて貰えないでしょうか」
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