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34 準備 side 陸

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鐘の音が響き、授業終了。
俺は、さっさと帰るためにカバンに荷物を詰め込み立ち上がったんだが。

バーンッ

片足をひっかけ器用に扉を開け放ったゴリラが、その手に抱えるほど大きな箱を持ってズカズカ教室に入って来る。


「よーしっ、打ち上げするぞぉっっ」


まだホワイトボードを消している教師を無視し、明るく宣言。
わらわらとその周りに生徒が寄っていき、箱の中からペットボトルやら菓子袋やらを取り出して列ごとに数を分けたり袋を開けたり準備しだした。

・・・打ち上げ、だと?


「こらこら、笹部。
何を帰ろうとしてるんだ?
ホームルームを忘れてるぞ」


ニッと口角を上げて笑うゴリラ。
その背後をそそくさと教師が横切っていく。
ゴリラの名指しに稲葉だけが振り返り、クスクス笑いながら「やだぁ、笹部ったら」と話しかけてきた。
ほかの生徒は、息を殺して俺の気を悪くしないように努めている。

あ"ーーー、ロングホームルームか・・・教科授業のことばっか考えてて俺の中で無かったことになってたぜ。
カバンを机の上に戻して渋々腰を下ろす。
テスト期間も近ぇから、ロングホームルームで反省会兼ねた打ち上げをするとか言ってたな。
打ち上げのことなんざ、頭の片隅にも無かった。

いや、もう教科関係ねぇなら帰って良いんじゃねえか・・・?

今朝、早退する三枝を迎えに来た千里さんに、「お前は関係ないんだから勉学に励め」と言われて乗車拒否。
あの人は元αだが、求愛給餌特化型αとは違うからな。
渡と俺への配慮が足りねぇんだよ。

合理的に割り切れねぇことだってあるってのに、秀才型の千里さんにとっちゃ学生の本分は勉強。
自分のΩがいつ本格的な発情期に入るかわからねぇ、気持ちがざわついて落ち着かねぇこのときに、だ。
授業なんてやってられるか、番の特例事項で帰ることに学園はいちゃもんもつけねぇって言ってんのに、「発情期が来ていないのに、αのお前が家にいてどうする?サボる大義名分にならないぞ」と自分ルールでバッサリ。
「お前と渡君が番うまで、どうせ家にαは入らせないんだ。例え今日発情しても、帰宅してからで十分だろう」とか。

あの人は、鬼だ。

千里さんを怒らせると、長い。
反省を促すために、こっちが思いもよらない方から攻めてくるところがあって行動が未だに読めない。
もし、ホームルームも千里さんの中で勉学に入るとするなら、帰るのはやべぇよなぁ。
下手すると、「学生でありながら勉学を疎かにする身で番を持つなんてまだ早いっっっ」とか言い出して、渡に抑制剤を打ちかねねぇ。

・・・いや、打つな、あの人なら。
もしくは、修行してこいとか言い出して俺を自分の母校に転校させるとかもありそうだ。

挨拶に来た三人相手に「本当に、本当に、こんなのと番になって良いんですか?」とか言い出してたからな。
まさか、身内側からこの段階で反対されるとは思って無かったから肝が冷えた。
あそこで、俺を許すことは無いと言ってた道成さんから「やっぱり考え直します」とか言われたらどうするつもり・・・いや、千里さんなら自分オススメのαを紹介しそうでこえぇ。
実の息子より、息子が変異させた渡に気を使ってるからな。
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