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33 挨拶
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「俺は、カナに格好良かったって言われるのが一番嬉しい」
なのに、ヤマのバカはトンチンカンなことを言って俺に笑いかけてくる。
見られている方が蕩けそうなくらいの甘い笑顔に、気持ちがすっかり丸め込まれてしまう。
丸め込まれて、俺の方までトンチンカンなことを口走っていた。
「お、俺だって、ヤマに可愛いって言われるのが、い、一番嬉しい・・・」
「うん、カナがどんなに可愛いか一番知っているのは俺だけにしてね」
身を寄せてきたヤマにこっそり耳元で囁かれ、頬が染まる。
ヤマは本当にズル・・・
「菊川もかなちゃんも、廊下でいちゃついてんじゃねぇーよ」
背後からのツッコミ。
馴染みのある声に驚いて二人で同時に振り返ると、黒マスクを外した笹部が眉間にシワを寄せて睨んでいた。
俺達が立ち止まった横を、踵を踏み潰した上履きをペタペタ鳴らしながら通り過ぎていく。
「ん?
おい、三枝と帰ったんじゃないのか?」
なんでこんなところにいるんだ?
追いかけながらその背に話しかけるが、笹部は振り返ろうともしない。
「あ"あ"?!
帰れるもんなら帰りてぇーわっ」
「帰ればいいだろう?
番関係の休みとして、申請出来なかったのか?」
差別を良しとしないバース性混在の茅野学園だが、区別として優遇されてていることはある。
その中には、Ωの発情ヒートやαの発情ノットによる性交渉で身体を労るための休みに関する項目がある。
三枝が発情してるなら、それに該当するだろう。
「そのへんは出来た。
出来たっつーのに、あのクソ真面目な親がっ」
ゾクッ
笹部の身体から滲み出した苛立ち混じりの攻撃フェロモンが、床を這って広がり俺の足元まで伝ってくる。
冷たく凍てつく、笹部のフェロモン。
あの、フェロモン、だ。
ヤマの所有フェロモンが足されていたおかげなのか、あの余波を感じたときよりも元々の威力が弱かったのか。
それは、そう、魂ごと凍りつく、研ぎ澄まされたものでもなく。
ほんの僅かなフェロモンが、かすった程度のもの、だったんだが。
俺は、あのとき食堂で感じた恐怖を思い出し足がすくんでしまった。
そうだ、こいつは馬鹿にしていたこともあったけれど、確かにαなんだ。
俺なんて、あっという間に侵略できる強さをもったα。
ヤマは、すっかり怯えてしまった俺を胸に強く抱き寄せ、冷静に、だが有無を云わせぬ強さをもって命じた。
「抑えろ、笹部」
「あ・・・わりぃ」
フェロモンの垂れ流しは無意識だったらしく、笹部は呼びかけられてからやっと止まった。
振り向いた顔は決まりが悪そうに歪んでいたが、一瞬でそれが引き攣ったものに変わる。
「え、いやいや、待ってくれって、菊川。
つい、出してたけど、わざとじゃねぇーし、だいたい漏れただけで危害にもなんねぇレベルだろう?」
笹部の声が、話せば話すほど焦って上擦るのがわかる。
なんでヤマ相手にそんなに焦っているのかと不思議に思い、その視線の先を見上げると。
そこには、無言で威圧しているヤマの顔。
無表情にして極寒の眼差しは、普段笑顔が多いヤマからは想像もつかないくらい冷たい。
もしかして、αに絞った攻撃フェロモンまで出してるんじゃないよな?
お、俺が、過剰反応したせいなのか?!
慌ててヤマに「大丈夫だ」と繰り返し、矛先をおさめてもらったが。
これは、また起こるかもしれない・・・な。
俺の中で、笹部の攻撃フェロモンがすっかりトラウマになってしまっているようだ。
なのに、ヤマのバカはトンチンカンなことを言って俺に笑いかけてくる。
見られている方が蕩けそうなくらいの甘い笑顔に、気持ちがすっかり丸め込まれてしまう。
丸め込まれて、俺の方までトンチンカンなことを口走っていた。
「お、俺だって、ヤマに可愛いって言われるのが、い、一番嬉しい・・・」
「うん、カナがどんなに可愛いか一番知っているのは俺だけにしてね」
身を寄せてきたヤマにこっそり耳元で囁かれ、頬が染まる。
ヤマは本当にズル・・・
「菊川もかなちゃんも、廊下でいちゃついてんじゃねぇーよ」
背後からのツッコミ。
馴染みのある声に驚いて二人で同時に振り返ると、黒マスクを外した笹部が眉間にシワを寄せて睨んでいた。
俺達が立ち止まった横を、踵を踏み潰した上履きをペタペタ鳴らしながら通り過ぎていく。
「ん?
おい、三枝と帰ったんじゃないのか?」
なんでこんなところにいるんだ?
追いかけながらその背に話しかけるが、笹部は振り返ろうともしない。
「あ"あ"?!
帰れるもんなら帰りてぇーわっ」
「帰ればいいだろう?
番関係の休みとして、申請出来なかったのか?」
差別を良しとしないバース性混在の茅野学園だが、区別として優遇されてていることはある。
その中には、Ωの発情ヒートやαの発情ノットによる性交渉で身体を労るための休みに関する項目がある。
三枝が発情してるなら、それに該当するだろう。
「そのへんは出来た。
出来たっつーのに、あのクソ真面目な親がっ」
ゾクッ
笹部の身体から滲み出した苛立ち混じりの攻撃フェロモンが、床を這って広がり俺の足元まで伝ってくる。
冷たく凍てつく、笹部のフェロモン。
あの、フェロモン、だ。
ヤマの所有フェロモンが足されていたおかげなのか、あの余波を感じたときよりも元々の威力が弱かったのか。
それは、そう、魂ごと凍りつく、研ぎ澄まされたものでもなく。
ほんの僅かなフェロモンが、かすった程度のもの、だったんだが。
俺は、あのとき食堂で感じた恐怖を思い出し足がすくんでしまった。
そうだ、こいつは馬鹿にしていたこともあったけれど、確かにαなんだ。
俺なんて、あっという間に侵略できる強さをもったα。
ヤマは、すっかり怯えてしまった俺を胸に強く抱き寄せ、冷静に、だが有無を云わせぬ強さをもって命じた。
「抑えろ、笹部」
「あ・・・わりぃ」
フェロモンの垂れ流しは無意識だったらしく、笹部は呼びかけられてからやっと止まった。
振り向いた顔は決まりが悪そうに歪んでいたが、一瞬でそれが引き攣ったものに変わる。
「え、いやいや、待ってくれって、菊川。
つい、出してたけど、わざとじゃねぇーし、だいたい漏れただけで危害にもなんねぇレベルだろう?」
笹部の声が、話せば話すほど焦って上擦るのがわかる。
なんでヤマ相手にそんなに焦っているのかと不思議に思い、その視線の先を見上げると。
そこには、無言で威圧しているヤマの顔。
無表情にして極寒の眼差しは、普段笑顔が多いヤマからは想像もつかないくらい冷たい。
もしかして、αに絞った攻撃フェロモンまで出してるんじゃないよな?
お、俺が、過剰反応したせいなのか?!
慌ててヤマに「大丈夫だ」と繰り返し、矛先をおさめてもらったが。
これは、また起こるかもしれない・・・な。
俺の中で、笹部の攻撃フェロモンがすっかりトラウマになってしまっているようだ。
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