ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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33 挨拶

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三枝がテスト前に部活停止期間に入ると、樟葉の家でテスト勉強をするのはすっかり定着している。
樟葉の場合、応用問題は相変わらず壊滅的に解けないが、基礎問題が解けるようになってきたからな。
まぁ、点数が取れるようになったのは、応用問題を最初から諦めて基礎問題に全時間を費やす捨て身の作戦の成果ではあるんだが。
ギリギリでも良いから、なんとか一緒に三年生に進級したい。


「フフフ・・・さえ、んん、ワタルン、何を話してくれるんだろうねぇ」


言い間違えてしまったことを照れながら、樟葉が話し掛けてきた。
三枝は、俺にもワタルンと呼ばれたいらしいが、友達いない歴の長い俺にはハードルが高いため丁重に断った呼び名だ。


「状況説明もあるだろうが、番になることや諸々相談もあるんじゃないか?
三枝は、二次元から知識を得すぎている。
実際に笹部と両想いになったことで、足りないことも出てくるはずだ」

「そっかぁ、そうだねぇ。
僕で何か出来ることがあるかなぁ」

「それはあるだろう」


産まれてからずっとΩとして生きている俺達の方が知っていることは多い。
何か出来ることどころか、あのお花畑三枝に対してなら出来ることだらけだと思うぞ。
俺があっさり頷くと、樟葉は驚いたらしく息を飲んでその場で足を止めた。
なんでそんなに驚くんだ?


「あ、あ、あるかな、本当にあるかな?
あるなら、僕、いっぱいいっぱい力になりたいよっ」


感情が昂ぶり過ぎて、珍しく早口になっている。
少し行き過ぎて振り返った俺の手を取り、詰め寄るように顔を覗き込まれた。


「ぼ、僕ね。
三枝君やかなちゃん、ここで出会えた皆に、本当に本当に感謝しててっ
恩返ししたくてっ」

「わ、わかったから落ち着け、樟葉」


前髪の隙間から、興奮して涙まで滲んでいる瞳に映されドキッと心臓が跳ねる。
零れ落ちそうな輝く瞳は、真剣すぎて痛々しい。
感謝を述べた言葉とは裏腹に、追い詰められているような悲壮ささえ感じるぞ。

後ろを歩いていたヤマは、樟葉が俺の手を取っも止めることはしなかった。
樟葉や三枝が相手だと、多少仕方ないといつも諦めたような顔で許してくれている。
だけど・・・樟葉の尋常じゃない様子に怪訝な表情で樟葉を見下ろしていた。
樟葉は、ヤマがすぐそばで見ていることにも気付かないくらい余裕がなかった。


「僕、自分だと思い浮かばないから、かなちゃんが僕に出来るって思ったこと、なんでも頑張るからそのときは絶対に絶対に教えて欲しいんだっ」

「わ、わかった、教える」


樟葉は、俺がその迫力に押し切られる形で思わず承諾すると、ホッと息を吐いて手を離してくれた。
ヤマに見られていることにも気づいて、アワアワと後ろに数歩下がり俯いてしまう。

俺の手を握っていた樟葉の手は、震えていた。
樟葉にとっても、三枝はとても特別な存在なんだな。

このあと、指切りまでさせられたんだが。
御珠神社の神子との指切りは、正式な契約を交わしているようで少し緊張してしまった。
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