ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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33 挨拶

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「かなちゃん、かなちゃん、あんなっっ、あんなっっ」


三枝は、俺が靴を履き替えている間も、そわそわと落ち着きがない。
わざわざ下駄箱まで降りてきて、俺の後ろを行ったり来たりしながら、履き終えるのを待っている。
話したくてウズウズしているのが、振り返らなくてもわかるくらいにテンションが高い。

が。

学園祭から昨日までの三日間、三枝の身に起きたことは、こんなに人が溜まっている場所で、その勢いのまま話していい内容じゃないだろう。


「三枝、話は生徒会室で聞くから。
まずは、落ち着け」

「落ち着けへんよっ
いーーーっぱい話したいことあんねんもんっっ」

「大体のところは、チャットでやりとりしてるんだから、落ち着けって」

「えー、無理無理っ
ちゃんと話したいもんっ」


三枝は、その場で両手の握り拳をブンブン振って力説。
笹部は壁から背を浮かせたが、三枝の暴走を止めに来る気は無いらしい。
ふらりと背を向け、さっさと生徒会室に向かって歩き出していた。


「わかった、わかった。
生徒会室で聞くからさっさと行くぞ。
ほら、笹部も先に行ってるし」

「わっ、ほんまやっ
陸、待ってぇやぁっ」

「あほ、走ったら転けるぞ」

「大丈夫やで?」


足を止めて待っていた笹部に、三枝は笑顔で答えている。
り、陸・・・名前で呼び合うようになったのか。
その呼び方に違和感を覚えたのは、俺だけでは無かったらしい。
その場にいた生徒は一斉に静まり返り、二人の背中が廊下の角を曲がって完全に見えなくなるとその場にどよめきが走った。

茅野学園は、内部進学者が多いからな。
中等部からの笹部を知っている人間なら、あの笹部を名前で呼び捨てにしても許されている強者の誕生に衝撃を受けるのもわかる。
同じ生徒会、群れに所属していても、周りから見れば三枝はただのβだ。
αからすれば、仲が良いという括りにも入ってないだろうし。
βからすれば、仲は良さそうだが対等の仲だとは思えないだろうし。

笹部のことを下の名前で呼ぶ人間も、今までいなかった筈だしな。
三枝、教室に戻ったら絶対に根掘り葉掘り聞かれるぞ。
三枝の身の危険を回避する意味でも、変異種Ωであることは笹部と番になるまで伏せておいた方がいいだろう。
そのあたりを伏せて、どうやって周りを言いくるめるかも考えないといけなくなった。

学園祭から笹部と三枝へと話が完全に移行した周りの騒々しさに、思わずため息が漏れる。
ヤマは「大丈夫か」と心配してくれたんだが。
三枝は、すぐに顔に出るし、つい口も滑るだろうし、どう考えても大丈夫じゃない。
何も言わなくても、ヤマには伝わったらしい。


「なるようになるさ」


そう微笑まれ、そうだなと力無く頷いた。
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