ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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33 挨拶

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学園祭明けの生徒の登校時間は、通常より半時間早い。
廊下に出して帰った机や椅子が、教室掃除の後に廊下の掃除に取り掛かった業者の手で適当に教室に戻されているからだ。
それを、クラス全員でショートホームルームまでに元の位置に戻さなければならない。

今朝までは部活動も禁止されているからな。
生徒の登校は、一時間前当たりから増えだしどうしても集中してしまう。
更に、顔を合わせると学園祭のことで盛り上がり、足を止めてその場で話し出す生徒も多いため校門やロータリーから教室に着くまで時間もかかるようだ。

ロータリーから昇降口に向かう道すがら、俺とヤマも普段よりたくさんの生徒に話し掛けられ、ゆっくりしか進めない。
概ね、学園祭成功の賛辞や、ヤマの格好良かったステージへの評価、あと、俺のあのコスプレのこととか笑顔で褒められると無下にも出来ない。

去年の、まだ薄暗い時間に足取り重く登校したときとは大違いだ。
あの日は、学園祭で起きた事案を説明するための臨時生徒総会をすることになっていたからな。
当時の生徒会役員は、ニ時間前に生徒会室に集まって理事長や一部の教師と一緒に打ち合わせをしていた。
他の生徒も流石にあの時間には来ていなかったし、俺はヤマが記憶喪失になっていたこともあって気が重かった。


「ありがとう」


ヤマは、俺と手を繋ぎ、反対側の肩には二人分のカバンかけて歩きながらニコニコ笑顔で返している。
笑みを向けられた生徒、特に女子生徒は、固まって話していた相手と顔を赤らめてキャーキャー嬉しそうに一層の盛り上がりをみせている。


「一時間前に来てもこれだけ生徒が来てるとなると、生徒会室で話した方が良さそうだな」

「そうだな」


俺の提案に、ヤマはあっさり頷いてくれた。
生徒会室を私物化することになるが、致し方無い。
挨拶や手を振り返したり、お礼を言ったりしながら下駄箱まで辿り着くと、そこには既に履き替えていた三枝と笹部の姿があった。


「あ、かなちゃーん、菊川くーん、おはようっ」


男女問わず生徒に囲まれていた三枝は、俺達に明るい声で手を振ってくれたので軽く振り返した。
どうやらここまでと察したのか、三枝の周りから人が引いていく。
チャットではやり取りをしていたが、元気な姿を実際に見るとホッとするな。
その後方で壁にもたれ掛かっていた笹部は、不機嫌だとわかり易いくらいに眉間に皺を寄せて腕を組んで微動だにしない。
黒マスクを着けているせいか、近寄り難さが尋常じゃないぞ。
話し掛けたそうな生徒が遠巻きに眺めているが、ずっと完全無視を決め込んでいたようだ。

対照的な二人の様子に首をひねる。
両想いになって付き合うことにもなって、両家の親公認だというのに、なんだこの温度差は?
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