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32 挨拶 side 渡

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「たーだいまっ」


解錠して扉を開けたらな。
「「おかえりー」」って、二人の声がリビングから聞こえて、出迎えに来てくれる足音がしたしな。
先入ってって、笹部を中に入れて扉の鍵をかけて。
ちょうど出てきた親に、「この人が笹部 陸君やで」って紹介しようと思ってんけど。

「この人が」ん所で、隣にいる笹部君を見たら、あるべきところに顔どころか身体も 無くて。
えぇっ?!って驚いて探したら、紙袋を脇に退けた笹部君が、おかんとおとんの出しっぱなしの靴を避けるようにしてその場に土下座しててんっ

ちょ、何やってんの?!

これには、出て来てくれたおかんも、その後ろをついてきてたおとんもビックリ。
おかんもおとんも、「どう言うこと??」って目で俺に聞いてくるけど。
俺もわからへんし、首を左右にブンブン振ることしか出来へん。

なんか、胃が重くなるようなおかしな雰囲気までしてきたし、無意識にお腹に手ぇを当ててた。
土下座、しかも額がたたきについてそうな笹部君に、とにかく立ってってお願いしようと思ったんやけど・・・顔を下に向けたまんまの笹部君が、口を開く方が早かった。


「小学二年の夏、大切な息子さんをΩに変えた笹部 陸です。
申し訳ありませんでした」


静まりかえる玄関。
突然笹部君が謝るから、なんで?なんで?って俺はその場に立ったまんまオロオロ。
場所が狭くて、俺がしゃがんで笹部君を立ち上がらせようにもその背中に膝が乗ってしまう・・・どうしたらええの?
何が起こってんの?


「さ、笹部君、どうしたん?
挨拶に来たんやないの?」

「挨拶に、も、来ました。
あの頃の俺、いや、私は幼く、親が代わりに謝罪と今後の話を進める中で、お二人に名乗ることも出来ていませんでした。
私の勝手ですが、この場を借りて、あの時、俺自身が出来なかったお詫びもさせて頂きたく伺いました」


俺が話し掛けても、頭を下げたままの笹部君が話してる相手はおかんとおとん。
それは俺にもわかったし、二人を見たんやけど。

ゾクッ

そこに立ってたんは、能面をつけてるような、感情がどっかに消えてしもた二人で。
そんな二人が、黙って土下座してる笹部君を見下ろしてる姿に半泣きや。


「もぉっ、止めてぇやぁっ
そんな怖い顔見たないし、笹部君一人がしたことみたいに謝られんのもいややっ」


って言うか、泣いてた。
握り拳に力込め過ぎて、掌に爪が刺さって痛いけど。
こんな三人目の前にして、身体の全部に力いれんと声なんか出ぇへん。
倒れそうや。
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