ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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30 学園祭 side 陸

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一語一語を噛み締めて、心から願う。
番を諦めていたのに、告げる機会を得られたこと。
滲む視界に映るのは、俺のΩ。
二度と会えねぇと諦めていた、俺のΩ。
知らずに傷付けてきた、俺のΩ。

断られても断られても、最後まで。
三枝が他の誰かを選んでも諦めない。
どれだけ嫌がられても、二度と俺の方から三枝の側を離れない決意はとっくに固まっていた。

だから、伝えた。
何もしないまま、俺の気持ちを伝えないまま、お前を他のα、いや他の人間に取られるのは嫌だ。
拒まれ、罵られても。
俺はお前を番にしたいんだ。

三枝は、一方的な俺の告白に驚き目を見開いたが。

ふわり、花が綻ぶように笑った。

笑顔なんて向けられるとは思わず、俺は意表を突かれる。
今度はこっちが息を呑む番だ。
なんで、笑える?
こんな俺を前にして。
勝手が過ぎる、こんな俺を前にして。

三枝は、微笑みを浮かべたまま右手を掴んだ俺の手にそっと左手を重ねた。


「俺も、笹部君の番になりたい」


受け入れられる可能性なんて、欠片も考えていなかった。
今のはただ、俺の気持ちを伝えたかっただけだ。

なのに。

自分の意志でなると、喜びに満ちた瞳で答えた三枝。

まさかの笑顔と、まさかの答え。

あぁ、やっぱりお前は天使じゃねぇか。
三枝にもっと触れたくて、膝上で握り締めていた左拳から力を抜いた、その時。
不意に、ガチャッと扉が開き菊川が入って来た。


「笹部、三枝、話は終わったか?」

「おい、ヤマッ」


かなちゃんの声も聞こえてきたが、珍しく菊川はその声に振り返らず扉を閉めてしまう。
慌てて目元を服の裾で拭ったが、かなちゃんには見られてないよな?
菊川ならまだしも、かなちゃんに泣き顔を見られるとか有り得ねぇ。


「あ、菊川君。
そうやん、巡回時間っ」


俺の手に触れたまま、三枝は菊川を見上げた。
菊川は、対面していた俺と三枝に何かを感じ、俺の顔色を見て苦笑い。


「あ"ー、ん、それは俺とカナでやっておく。
笹部に回る体力は残って無いだろう」

「・・・良いのか?」


正直、朝から探し回って嗅覚を使い過ぎた。
しかも、三枝に受け入れてもらえたまさかの展開に気が抜けて身体に力が入りそうもねぇ。
つーか、今にも気を失いそうなくらい体力がもっていかれてんのに、発情フェロモンで昂ぶる身体がそれを許さねぇから起きれてるだけだ。
三枝は俺が座り前屈みになっているから気付いてねぇみたいだが、下半身だけ別もんみてぇ切り離され、そこだけ異様に熱くてヤバイ。
まだ三枝に発情期は来てねぇのに、噛みたいと牙が疼く。

菊川から、胸ポケットに入っていた黒いマスクを手渡された。
フェロモンを緩和させるα専用のマスクか。
有り難ぇ。
もっと嗅いでいてぇが、こんな場所と状態じゃ諦めるしかねぇ。
早速着けると、三枝の微弱な発情フェロモンは完全に遮断され、身体の中に残っている匂いも徐々に弱まっていく。
途端に、重くなる瞼。
あー、こりゃ、飛ぶな。


「終了宣言も止めとくか?」


今にも落ちそうな意識の中、終了宣言・・・そのワードに首を振っていた。
散々なことを三枝にはしてきた。
少しくれぇ、格好良いところ見せねぇと。

だが、そこまで。
当に限界を超えていた俺は、そのまま意識を失った。
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