ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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30 学園祭 side 陸

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視えてねぇのに、見える気がした。

ワンピースの下、シャツ一枚の三枝の身体から、霧の波が部屋へ広がっていくのが。
三枝から目が離せず、かと言ってそれ以外のことをする余裕もなく。
ソファーに腰掛けたまま、昂ぶる気持ちと身体を持て余す。

ゴソゴソと、ジーパンを履いて薄手のトレーナーを着終わった三枝は。
きっと、急ぐことで頭が一杯なんだろう。
俺のことを見る余裕もなく、手早くワンピースを畳み紙袋にウイッグと一緒に入れ終わると机を回って走ってきた。


「な、なんとか、1分前、やんな?」


俺の正面まで来て、壁掛け時計を見上げた三枝。
ホッと頬を緩めて俺の顔を見下ろす。
ぎこちない笑顔。
ふわり、ふわり。
薄いけれど、確かに匂う俺のΩの発情フェロモン。
理性を飛ばしきるにはまだ足りないが、気を高ぶらせる強制力には抗えねぇ。

あぁ、コレが夢であってたまるかよ。
欲しくて、欲しくて、ずっと手に取り戻したかった俺のΩ。
発情フェロモンの、これはほんのサワリに過ぎないんだろうが。
残り香よりも強く、俺のΩは間違いなくここにいるのだと示している。
こんな匂い、現実じゃなけりゃ嗅げるわけがねぇ。
陽だまりのような三枝の体臭と、望んで止まなかった発情フェロモンが混じる俺だけが知ることの出来る匂い。

口元を隠し、自分を見上げたまま興奮で肩で息をする俺に、三枝は膝を屈めて視線を無理に合わせなくて良いように気を使ってくる。
あんなに酷いことをした俺を心配して、「なぁ、ヤバない?休まんとあかんのちゃう?」と右手を伸ばして左肩に恐る恐る触れてくる。

あのときの、好きだと告げられた言葉。
俺が拒絶した言葉。
穿った見方をわざわざしなけりゃ、アレが三枝の本気の言葉だったんだと分かる。
この一年半、一緒に行動してきたコイツが、嘘やからかいでそんなことを告げるようなヤツじゃねぇのはわかってたじゃねぇか。

俺がお前をΩに変えたのに。
俺がお前の人生をめちゃくちゃにしたのに。
その俺に、好きだと言うとか。


「ハッ、天使かよ」


漏れた呟きをとらえた三枝は、一瞬なんのことかわからず考え。
考えた末に、フフッと笑った。


「ちゃうで。
さっきのは、アリスやで。
そんなしんどそうなのに、冗談とかえぇて。
気不味かったん、笹部君も気にしてくれてたん?」


嬉しそうな三枝。
そうじゃねぇよ。
そうじゃねぇけど・・・もう、お前の笑顔が見れたならソレで良いか。

俺が伝えたいことは、もっと別だ。
お前を変えたこと、それを赦されなくても謝り続け、お前の好きが友情とかそれに近いものだとしても。
こんな俺にも、チャンスが欲しいんだと願うこと、努力することを許してもらわねぇと。

右手を外し、三枝に牙を晒す。
驚いて身を引こうとした三枝の右手を掴み、肩に戻させた。
例え怯られても、お前が欲しい俺の気持ちをこの牙で伝えたかった。

あぁ、本当に。
俺の血は欲深く、なんて勝手が過ぎるんだろう。
押し付けることでしか、謝ることも出来ねぇなんて。
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