ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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30 学園祭 side 陸

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手洗い場で口をすすいで顔を洗っていたら、スマホに着信が入った。
ガランとした男子トイレに、やけに響く電子音。
普段は気にもしねぇのに、ズキズキ頭が痛む。

ポケットから出したハンカチで顔や濡れた手を拭いて元に戻す。
それからポケットのスマホを取り出し、漸く鳴り止まない画面を見れば菊川からだった。
時間は、巡回半時間前。

ちょうどいい。

鏡に映る憔悴しきった顔。
ただでさえ目つきがわりぃのに、今から人を殺しにでも行きそうだな。
自分の冗談にも笑えねぇ。
まだ、気分が悪くて嘔吐感が消えない。
巡回は出来ないと、断ろう。
菊川になら、俺の下心を明かしてもいい。

さすがに泣いたことまではバラしたくねぇからな。
深呼吸二回で動揺を抑え、やっと、応答の文字をタップした。


「悪い、出るのが遅れた」

『あぁ、大丈夫か?
カナから、お前の様子がおかしかったと連絡が来た。
まだ、見つかってないんだな。
そんなに思いつめるなよ?』


三枝のことばかりが頭を占めていた俺は、菊川の労りを多分に含んだ会話の中に、不意にカッキーの話題を出され声が出なかった。 
なんて、無責任なんだ、俺は。
今の今まで、忘れていた。
俺のΩ。
俺の犠牲者。
ブルブルと手に震えが戻り、自分の愚かさを嘆いて叫びそうになる。


『今どこにいる?』

「・・・特別棟の四階だ」

『なら、ちょうど良い。
そのまま東棟の三階に降りて、生徒会室で少し休め。
寄る用事があったから、三枝から鍵を預かったんだ。
目安箱に入れたから、それで開けたら良い。
暗証番号はわかるだろう?』


暗証番号は、かなちゃんと菊川の誕生月の足し算。
4812。
確かに静かな場所で横にはなりてぇが、三枝と鉢合わせることになる。


「いや、俺は・・・調子がかなり悪い。
巡回は出来そうにねぇし。
早退したい」


こんな状態で、三枝と合わす顔がねぇ。
無責任で、強欲で。
何も知らない三枝に、変異種Ωを迫ろうとしていた。
今となっては、去年の学園祭で三枝が俺を嫌っていたことに感謝しかねぇ。
好かれてなかった事実より、三枝が変異種Ωにならなかったことに自分はガッカリして傷付いていたんだからな。

体育祭で好きだと嘘をつかれ、激昂して怯えさせた。
むしろ、あれだけ強要の機会を狙って近付いていた俺に警戒していた三枝が正しかったっていうのに。


『そんなに悪いなら、尚更生徒会室で休め。
14時になったら、俺が様子を見に行く。
そこで無理と判断したら、代わりに俺とカナで回るし、終了宣言の方も竹居と松野で再アレンジを考えてもらう。
菊川の車で、家にも送る』


よっぽど、かなちゃんの前で俺は失態を晒したんだな。
かなちゃんから、俺の普通じゃない様子を聞かされたらしい菊川は譲らねぇ。
そこまで菊川に言われて、突っぱねるのは無理だな。


「教室の撤去とか、そういうのは良いのか?」

『クラスの方は完売で、片付けはもとから免除されてる。
良いから、休め。
鍵は掛けるなよ?』

「・・・わかった。
そうさせてもらう」


通話を切り、大きく息を吐く。
確かに、疲れた。
自分が見えていなかった内側を覗いて、その醜悪さに受けたショックがでか過ぎる。
静かな場所で休みてぇ。

俺は、菊川の言葉に甘えて生徒会室で休むことにした。
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