ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
734 / 911
30 学園祭 side 陸

29

しおりを挟む
受付を通さずに入ってきた俺を、驚いたかなちゃんがパチパチ瞬きして出迎えた。
それぞれのテーブルにつき、客と話していた芝浦、柴田、樟葉も突然の乱入者に驚いて振り向いている。
が、動揺していた俺には、どんな反応をされているのかも頭に入ってこねぇ。
力の抜けた手から、紙袋が床へ滑り落ち、中でグシャリとパックが歪んだ音がした。


「あ、あぁ、笹部か。
誰が入ってきたんだと、驚いたぞ。
せっかく来てもらったんだが、フードメニューはクッキーも含めて既に完売で・・・お前、顔色が悪いぞ?
大丈夫か?」


トレイに載せていた飲み物を先に提供し終え、かなちゃんが俺に近づいてくる。
菊川の所有フェロモンをたっぷりと身に纏った、今の俺には罪悪感さえ覚える幸せな番の象徴に身構えてしまう。
あぁ、見てるだけで罪悪感に苛まれる。


「大丈夫だ。
それより、菊川は?」


目で見える範囲に、菊川の姿がねぇ。
仕切りの向こうにでも居るんだろうか。
あぁ、こんな状態でアイツと巡回なんか出来るわけがねぇ。
菊川にはなんと言われようと、巡回からおろさせて貰わねぇと・・・


「ヤマ・・・倭人さんなら、体育館に行くとさっき出ていったところだ。
竹居と終了宣言の打ち合わせがあると言っていたな。
田栗や海と空も一緒に連れて行くとか・・・おい、本当に大丈夫か?
何か、座って飲んでいけ。
俺が奢ってやろう」


この前のお返しになと付け加えたかなちゃん。
冗談まじりの言葉だが、よっぽど俺の顔色が悪いのか眉をひそめ、目で気遣ってくる。
気持ちはありがてぇが、なんも口に入る気がしねぇ。
むしろ、今にも吐きそうだ。
頭まで、ズキズキと痛み出す。

かなちゃんの勧めを、首を振って断る。
一刻も早く、ここから出てぇ。
アイツらがここに近づいてくる前に、教室から離れたい。
ふらつく身体に気合を入れ直し、出ていこうとしたんだが。


「おい、忘れ物だぞ?
今にも倒れそうじゃないか。
何を急いでいるか知らないが、まだ巡回に半時間以上ある。
ここで休め」


紙袋を拾ったかなちゃんに、腕を取られそうになり避ける。


「いや、気持ちだけ貰っとく。
それは」


それは、クラスで分けろ、とは、言えねぇな。
三枝に、俺なんかが買ったものを食わせることなんてこれ以上出来ねぇ。
ゾワゾワと走った悪寒に身震い。


「海か空が寄るだろうから、渡しといてくれ」


そのまま、振り返らず、息を止めて今度こそ離れた。
三枝の存在を、目でも鼻でも感じない場所まで。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

処理中です...