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30 学園祭 side 陸
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受付を通さずに入ってきた俺を、驚いたかなちゃんがパチパチ瞬きして出迎えた。
それぞれのテーブルにつき、客と話していた芝浦、柴田、樟葉も突然の乱入者に驚いて振り向いている。
が、動揺していた俺には、どんな反応をされているのかも頭に入ってこねぇ。
力の抜けた手から、紙袋が床へ滑り落ち、中でグシャリとパックが歪んだ音がした。
「あ、あぁ、笹部か。
誰が入ってきたんだと、驚いたぞ。
せっかく来てもらったんだが、フードメニューはクッキーも含めて既に完売で・・・お前、顔色が悪いぞ?
大丈夫か?」
トレイに載せていた飲み物を先に提供し終え、かなちゃんが俺に近づいてくる。
菊川の所有フェロモンをたっぷりと身に纏った、今の俺には罪悪感さえ覚える幸せな番の象徴に身構えてしまう。
あぁ、見てるだけで罪悪感に苛まれる。
「大丈夫だ。
それより、菊川は?」
目で見える範囲に、菊川の姿がねぇ。
仕切りの向こうにでも居るんだろうか。
あぁ、こんな状態でアイツと巡回なんか出来るわけがねぇ。
菊川にはなんと言われようと、巡回からおろさせて貰わねぇと・・・
「ヤマ・・・倭人さんなら、体育館に行くとさっき出ていったところだ。
竹居と終了宣言の打ち合わせがあると言っていたな。
田栗や海と空も一緒に連れて行くとか・・・おい、本当に大丈夫か?
何か、座って飲んでいけ。
俺が奢ってやろう」
この前のお返しになと付け加えたかなちゃん。
冗談まじりの言葉だが、よっぽど俺の顔色が悪いのか眉をひそめ、目で気遣ってくる。
気持ちはありがてぇが、なんも口に入る気がしねぇ。
むしろ、今にも吐きそうだ。
頭まで、ズキズキと痛み出す。
かなちゃんの勧めを、首を振って断る。
一刻も早く、ここから出てぇ。
アイツらがここに近づいてくる前に、教室から離れたい。
ふらつく身体に気合を入れ直し、出ていこうとしたんだが。
「おい、忘れ物だぞ?
今にも倒れそうじゃないか。
何を急いでいるか知らないが、まだ巡回に半時間以上ある。
ここで休め」
紙袋を拾ったかなちゃんに、腕を取られそうになり避ける。
「いや、気持ちだけ貰っとく。
それは」
それは、クラスで分けろ、とは、言えねぇな。
三枝に、俺なんかが買ったものを食わせることなんてこれ以上出来ねぇ。
ゾワゾワと走った悪寒に身震い。
「海か空が寄るだろうから、渡しといてくれ」
そのまま、振り返らず、息を止めて今度こそ離れた。
三枝の存在を、目でも鼻でも感じない場所まで。
それぞれのテーブルにつき、客と話していた芝浦、柴田、樟葉も突然の乱入者に驚いて振り向いている。
が、動揺していた俺には、どんな反応をされているのかも頭に入ってこねぇ。
力の抜けた手から、紙袋が床へ滑り落ち、中でグシャリとパックが歪んだ音がした。
「あ、あぁ、笹部か。
誰が入ってきたんだと、驚いたぞ。
せっかく来てもらったんだが、フードメニューはクッキーも含めて既に完売で・・・お前、顔色が悪いぞ?
大丈夫か?」
トレイに載せていた飲み物を先に提供し終え、かなちゃんが俺に近づいてくる。
菊川の所有フェロモンをたっぷりと身に纏った、今の俺には罪悪感さえ覚える幸せな番の象徴に身構えてしまう。
あぁ、見てるだけで罪悪感に苛まれる。
「大丈夫だ。
それより、菊川は?」
目で見える範囲に、菊川の姿がねぇ。
仕切りの向こうにでも居るんだろうか。
あぁ、こんな状態でアイツと巡回なんか出来るわけがねぇ。
菊川にはなんと言われようと、巡回からおろさせて貰わねぇと・・・
「ヤマ・・・倭人さんなら、体育館に行くとさっき出ていったところだ。
竹居と終了宣言の打ち合わせがあると言っていたな。
田栗や海と空も一緒に連れて行くとか・・・おい、本当に大丈夫か?
何か、座って飲んでいけ。
俺が奢ってやろう」
この前のお返しになと付け加えたかなちゃん。
冗談まじりの言葉だが、よっぽど俺の顔色が悪いのか眉をひそめ、目で気遣ってくる。
気持ちはありがてぇが、なんも口に入る気がしねぇ。
むしろ、今にも吐きそうだ。
頭まで、ズキズキと痛み出す。
かなちゃんの勧めを、首を振って断る。
一刻も早く、ここから出てぇ。
アイツらがここに近づいてくる前に、教室から離れたい。
ふらつく身体に気合を入れ直し、出ていこうとしたんだが。
「おい、忘れ物だぞ?
今にも倒れそうじゃないか。
何を急いでいるか知らないが、まだ巡回に半時間以上ある。
ここで休め」
紙袋を拾ったかなちゃんに、腕を取られそうになり避ける。
「いや、気持ちだけ貰っとく。
それは」
それは、クラスで分けろ、とは、言えねぇな。
三枝に、俺なんかが買ったものを食わせることなんてこれ以上出来ねぇ。
ゾワゾワと走った悪寒に身震い。
「海か空が寄るだろうから、渡しといてくれ」
そのまま、振り返らず、息を止めて今度こそ離れた。
三枝の存在を、目でも鼻でも感じない場所まで。
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