ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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30 学園祭 side 陸

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食べもんに、香水に、体臭、あとαのフェロモン。
昼時ってのもあるんだろうが、出てきた時より混ざり具合がひでぇ。
校舎に入ると、思わず鼻を手で覆っていた。

こっから俺のΩの発情フェロモン、しかも微弱でαの身体も反応せず、空でも気付かねぇようなのを嗅ぎ分けれんのか?
間近で喰らった清人さんの強烈な所有フェロモンはリセット出来たが、前途多難だ。

歩きながら食べてるヤツらの横を通っただけでも、その匂いが鼻に残って探るのを邪魔する。
たこ焼きやら、カレーやら、匂いのきつい物が売れどきってのもあるんだろうが。


「あーっ、兄ぃ、はっけーんっ」


廊下の向こう側から、笑顔の海が手を挙げて走ってくる。
明らかに海の趣味じゃねぇ、ワインレッドの膝下ロングワンピに白のショール。
しかも、銀色のロングウィッグまでしてるぜ。

つなぎじゃねーってことは、劇中の衣装か?
立ち止まった俺の前まで来ると、顔を近付けて耳打ち。
その藍色の瞳は、星の瞬きを宿してるみてぇにキラキラ輝いていた。


「空ちゃんに聞いたよっ
兄ぃのΩ、ここにいるんでしょっ」

「まぁな」


千里さんは俺の失敗談を妹二人に話している。
まぁ、千里さんとしては、反面教師にしたかったんだろうが。
妹は、逃した魚は大きいくらいに捉えてるんだよな。
「変異させてしまったら、絶対に離れないでおこうね」と、千里さんに隠れてコソコソ話してるのを聞いたことがある。
ちなみに、それを一緒に聞いていた親父は注意もせず頷いていた。

海が「いぇーい」と両手を挙げて来たから、俺もそれに両手を合わせパチンッと乾いた音を立てる。


「なーかなか、厳しそうだけど、見つけるしかないよね」


自分のことのように、ギラギラ獲物を探す狩人の目で周りを見回している。
それに驚いた人間が、目を合わせないように俯き、ビクビク怯えて足早に通り過ぎていったが気にしていない。


「なんか、海ちゃんにもわかるヒントとかあったら良いんだけどなぁ」

「自分のΩの発情フェロモンは、自分にしかわかんねぇからな。
気持ちだけ貰っとくよ」

「あー、だよねー
その辺、もっと融通がきいて欲しいもんだよ」


自分だけが惹かれるそれを、他のαは識別できない。
ただの発情フェロモンとその差を嗅ぎ分けられるのは、変異種Ωにしたαだけだ。


「体育館にいるとき、海ちゃんも気をつけてたんだけど。
発情フェロモンの匂いは一切無かったよ。
あそこって飲食禁止だから、兄ぃより先に見つけてあげられるかなぁって期待してたんだけど」

「そっか、それだけでも助かる」


海と空の嗅覚は、俺より劣るが他のαよりは上だ。
「よわーい発情フェロモンに気づいたら、連絡するねっ」と手を振り、海はちゃっかり俺に近くの焼きそばを奢らせて走り去っていった。

海は、午前午後に教室で公演に参加、合間に体育館で竹居のフォロー。
自由時間は適当に取るんだと言ってた。
空も、朝はアプリを来校者に勧めて、残りは体育館と適当に自由時間。
よく似たもんだな。

二人ともαしかいねぇ中学から編入してきたし、このバース性混在でしかも開放してる学園祭のスタイルは初体験。
学園に馴染めんのか、生徒会役員なんて務まんのかと心配だったが大丈夫そうだな。
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