ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
726 / 911
30 学園祭 side 陸

21

しおりを挟む
すっかり憔悴した稲葉を追い立て、教室から鞄と着替えを回収するとそのまま校門の外へ連れて行く。
着替える時間も与えなかったが、稲葉も何も言ってこなかった。

この件は、清人さんの介入込みで菊川には移動しながら電話で報告済みだ。
菊川は、清人さんの名前を出した途端呻いていた。
御愁傷様としか言いようがねぇ。
菊川が動いてる学園祭で、もしかするとあれだけ溺愛しているΩに危険が及んでいたんだからな。
まぁ、ただじゃ済まねえよなぁ。
かなちゃんの学園祭満喫には関係ない範囲だし、結果的には丸く収めたことになる俺には「ありがとう」と感謝していた。

ちょうど本部に寄っていた松野には、俺の前を歩く稲葉の様子がおかしいと向こうから話し掛けられ直接話した。


「あれは、相当だな」

「な」


トボトボと歩き去る疲れ切った背中。
周りの学園祭に向かってくる浮かれた人間とは別次元にいるみてぇだ。
俺の軽い相槌に、松野は溜息をついた。
ルールを破った稲葉に同情の余地はねぇが、清人さんの怒りを買った間の悪さについては哀れに思う。

稲葉は、振替休日明けに登校して来ねぇかもなぁ。
騒ぎに気づいた三組の生徒も、事の顛末を目撃している。
調子に乗り過ぎていた稲葉を、クラスのαは嫌っていたからな。
他のα女子の反感を受けて、逆に悦に入っていた節もある。

気があると思いこんでいた俺からはペナルティーを科せられ、上位のしかも生徒会長の兄である清人さんには睨まれた。
αとしての地位は、誰から見ても急下降。
これからは、下と侮っていたヤツらから揶揄され侮蔑されるようになる。
プライドが高い稲葉には、針のむしろだろう。


「お前が偏ったことをしたせいもあるんだぞ」


暗に一人しか相手にして来なかったことを攻められ、肩をすくめる。
元々、誘いに乗ること自体がメンドーなんだ。
仕方ねぇじゃねぇか。
今まで特に気にもしてなかった許嫁を、高等部に入った途端持ち出して全部断ってる松野に言われてもな。


「偏りがねぇように、お前も相手をしろよ」

「無理だ。
ああ見えて、俺の許嫁は勘が良い」


あっさりとかわされ、今度はこっちが溜息。
噂をすればなんとやら。
松野の許嫁まで現れる。
慣れた匂いに振り返る必要もねぇな。
まだ気付いていない松野の顔をニヤニヤ眺める。


「?
なん、だあっ」


背後からの突撃。
松野の身体が前のめりに傾いた。


「らーいとにぃ~
ねぇ、ねぇ、まだ休憩じゃないんすか?
待ちわびたっす~」


姿勢をすぐに戻せないでいる松野の背中に抱きつき、わぁわぁ喚く麻野。
松野はそれに答えるどころじゃねぇな。
嗤いたいが、嗤えば小言を追加されそうだ。
勢いに押されてぶち撒けた書類を拾うのを手伝ってやる。


「ねぇーってばぁっ」

「お前が仕事を増やしているんだ」


怒りを抑えている松野の額には、血管が浮いていた。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

処理中です...