ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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30 学園祭 side 陸

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「清人、戻ってこないけど何かあったの?」


扉前の俺にわざわざ会釈してから、前に出たΩ。
三枝の手を離して、腕を組み仁王立ちの菊川の兄貴、清人さんに歩み寄る。
途端に清人さんは、それまで俺と稲葉にかけていたプレッシャーを呆気なく開放。
Ωに自ら歩み寄って、その手を取った。


「何もないよ、ハル。
今、戻ろうとしていたところだ」


貼り付けていた仮面が溶解して、甘ったるい微笑みが目に飛び込んでくる。
元が整ってるだけあって、その威力は爆弾だ。
そっと指先にキスまでしたから、周りの野次馬がキャーキャーうるせぇ。
されたΩは、「はっ、恥ずかしいよっ」と嫌がってるが、清人さんは動じねぇ。
周りなんか気にせず、愛しい愛しいと雄弁に語る眼差しは一人しか映してねぇ。
その横顔に、あぁ、確かに菊川の兄貴なんだと納得できたけど、な。

なんだよ、この変わりようっ
菊川は常時緩くてかなちゃんを甘やかしてるが、清人さんのは落差が激しすぎる。
こんなん、目の前で見てなかったら同じ人間とは信じられねぇ。
二重人格じゃねぇか。

その向こう側の稲葉は、衝撃で口が開いたまんまだ。
そりゃそーだろう。
あんな冷たい、人を殺したって心が痛まねぇような顔で近付いてきたのが。
自分より遥かに劣って見えるΩの前で、とろけてんだから。


「そう?
なかなか清人が戻ってこないから、俺、パフェ食べ過ぎてね。
清人のが半分も残って無いんだよ」


ごめんねと謝るΩに、清人さんは微笑みで返す。


「ハルが好きなだけ食べてくれていいよ」


手を繋いで、何事も無かったように教室へ戻ろうとしてくれたから心底ホッとした。
あのままじゃ、納得してくれそうに無かったしな。
俺の手には余る。
つーか、菊川にもどうしようもねぇだろう。

トンッ

安心してたら、二人に道を譲ろうとした三枝を避け損ない肩がぶつかった。
三枝は振り向いて謝ろうとしたんだろうが、相手が俺と分かってその顔を引きつらせる。


「さ、笹部君」

「・・・おぉ」


去年と同じアリス姿。
衣装に手を加えたのか、少し雰囲気が違う気もするな。
なんて声を掛ければ良いのか、わからねぇ。
巡回もあるし、なんか言っといた方がいいんだろうが。

けど、何を。

迷っていた俺の肩に手がかかって、後ろに身体が軽く引かれる。
誰だと確認するより先に、耳元で静かなのに強いプレッシャーを含んだ低音が響いた。


「アレをさっさと敷地内から排除しろ」


この声は、清人さん。
認識した途端、ヒヤリと背筋が冷たくなる。
もし、清人さんとこのΩが稲葉と再び出くわすことがあれば。
好きにさせて貰うぞと言う完全な脅し。
わかっているなと、肩から手を離して視線を送られたから黙って頷く。

清人さんのフェロモンで鼻もイカれ、弱い匂いは追えそうにねぇし、俺のΩの発情フェロモンがこんな所有フェロモン漬けにされた教室に残ってるとも思えねぇ。
ここに居ても、仕方ねぇしな。

結局三枝に何も言えないまま、稲葉と一緒に二年四組を離れた。
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