ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
720 / 911
30 学園祭 side 陸

15

しおりを挟む
教室に向かう俺のテンションは再び上がっていた。
走った先に、俺のΩがいるんだと。
逸る気持ちが抑えられず、気付けば通行人の間をすり抜け走っていた。
生徒会役員の俺が走っていても、誰も注意をしてこねぇ。
何かあったのかと気にするヤツがいても、声を掛けてもこねーしな。

だが。

近付けば近付くほど、歓喜に満ちていた心に綻びが生まれる。
綻びから、どんどんその気持ちが零れ落ちていく。
渡り廊下から校舎に入り、軽快に走っていた足が二年の教室が並ぶ廊下に入ると徐々にスピードが落ち。
教室まで、後数m。
廊下に構えた受付で、整理券を受け取る人間が人混みの間から見えてくると足が止まりそうになった。

どこにいるんだと、見つかるかもしれない可能性にがむしゃらになっていたときには無かった。
具体的に迫る再会への緊張と不安がもたげてくる。

この先にカッキーがいる。

俺のΩに、会える。

もし、この場から去っていても、それほど時間は経ってねぇ。
かなちゃんの残り香を感知出来たんだから、教室に残った発情フェロモンを辿って追いかけることが出来る筈だ。
そう、アイツに会えるんだ。

長年、諦めてきた。
だが、番にしたい気持ちが消えることはなかった相手が射程範囲に入った。
緊張はわかる。
それだけなら、殺せる。

だが、不安は。

現実味を帯びた俺とカッキーの再会に、カッキーは喜ぶか?

カッキーに会って、番にしたい。
それは、変わらずここにあり続けてきた俺の願い、欲望だ。
ギリギリ締め付けられる胸を抑え、俺のΩへの気持ちに迷いは無かっただろうと弱気な自分を鼓舞しても。
それは俺が願っていたことで、カッキーの気持ちはどうなんだと。
その一方で、冷静な声が聞こえる。

俺は、会ってアイツに何を言えば良い?
親父と千里さんみてぇに、笑って暮らせる日が来るとか。
それはαの都合のいい夢だと、名前の無い墓標が否定する。

憎まれ、罵られ、嫌われても。
番になれるのなら、俺はなんだってやれる。
けど、赦されることなんか、あるのか。

一歩一歩、なんとか足を前に出す。

まずは、会わないと。
そうだ、会わなければ他のαに獲られる。


「・・・おい」


中に入るために、受付に声を掛けたが。
情けねぇことに、それは震えていた。


「はい?
あ、巡回ですか?
さっき、菊川君とかなちゃんも来てたけど?」

「騒ぎになっていたらしーからな」

「なるほど、なるほど。
お疲れ様です」


自分でも顔が強張ってんのがわかるのに、受付のメガネは怯えもせずニコリと笑う。
どうぞと言われ、締め切られた扉に手を掛けようとしたが。


「えー、笹部ぇ、なんで先に自分のクラスに来ないのよぉ」


邪魔が、入った。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...