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30 学園祭 side 陸

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かなちゃんの勘違いを利用して、開始からここまでのルートを聞き出そうとしたんだが。
俺も走りながら聞いていた菊川のマイクを使った挨拶。
その後、まず向かったのは自分達の教室。
わざわざ顔出しに行ったらしい。
そして、早々に廊下に出来た順番待ちの行列に喜んでいたら、菊川の兄貴が最後尾に加わったことで大騒ぎへ発展。
そこで交通整理と整理券の配布をしてたのだと言う。


「コレがウケるのかどうか、疑問もあったんだがな。
他のクラスの追随を許さないくらいの大盛況だったぞ。
お前のクラスも和風喫茶で検討はしていたがな」


フフンと、得意気なかなちゃん。
菊川の兄貴をひと目見ようと集まってきた人間と、列に並んでいた人間。
この2つの境目がわからないくらい廊下に人が溢れたそうだ。
「一旦落ち着いた筈だが、お前も注意しておいてくれ」とかなちゃんは至極真面目に巡回のアドバイスをしてくる。

菊川の兄貴には、世代も違うし、直接会ったことはねぇが。
確か職業がモデルとかデザイナーとかだったか?
まぁ、菊川の兄貴ってだけで優生αなのは確実。
こんなβの多い場所に来たら、騒ぎにもなるか。
わざわざ弟の学園祭に顔出して、しかも行列に並ぶとか。
菊川の家は、変わったαが育つんだな。
芝浦や柴田の芸能活動をしているα目当てに、菊川の兄貴が並ぶ前から人は集まっていたんだろうが。

のっけから怪しいじゃねぇかと、1つ目の行き先が決まる。
だが、他にもあるかもしれねぇしな。
続けて「他は?」と聞いたんだが。
口を開いたかなちゃんが、中庭の鐘楼についてる時計が10時半を回っていたことに気付いて。


「うわっ、大変だぞ、ヤマっ
『ロミオとジュリエットがいっぱい』が始まっているっ
田栗に観に来てほしいと言われていたのにっ」


そこから俺のことは完全無視。
菊川の腕を引っ張り、振り返りもせず去っていった。
おい、挨拶も無しか。
かなちゃん、俺の扱いがどんどん雑になってるよな。

別れる前に、残り香をもう一度嗅がせて欲しかったんだが、追いかける前にこのタイミングで菊川の所有フェロモンが目の前で追加される。
「可愛い」「大好き」「宝物」「俺の物」
鼻が溶けそうな甘ったるさに、思わず息を止めた。
これは、もう完全に消されたな。

どう見ても、引っ張られたくてわざと遅く走ってる菊川が、渡り廊下に戻る前にチラッと俺を振り返る。
へぇ、へぇ、わかってるって!
かなちゃんが学園祭をめぇいっぱい楽しむのが最優先なんだろう?
観てる間は、探しながらついでに巡回も兼ねとくよと手を振っておいた。

さて、移動するか。

今から二年四組に行っても、そこに俺のΩがいる保障なんてねぇが。
そこにしか、今の俺が辿れるモノが無い。
行けば、居るかもしれない俺のΩ。

闇雲に探していたときよりは、望みがあるこの状況に気持ちが上がる。
そう、思っていたんだが。
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