ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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30 学園祭 side 陸

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あの夏。
ヘリで病院へ移送されるアイツを見送り、そのまま諦めるしかなかった俺のΩ。
俺さえ近付かなければ、発情期は来ない。
例え会えなくても、俺のΩは俺だけのΩのまま。
他の女のものになっても、他のαの番になることはねぇ。

アイツが望んだ相手と一緒になれるのなら。
それは、どれだけ俺が納得できなかろうが譲らなくてはならないものだ。

相手の人生を狂わせる重み、俺達一族のせいで自殺した変異種Ωのこと。
その過ちを繰り返さないために、笹部家に生まれたαは、物心付く前から寝物語にまで聞かされ教え込まれる。
無理強いをすれば、自分のΩはこの墓の下で眠ることになるのだと。
生家から絶縁された変異種Ωが自殺した後、自分をΩにしたαと同じ墓に入ることさえ有り得ないのだと。
名前も刻まれていない墓標の前で繰り返し諭される。

俺さえ諦めれば、アイツはバース性が変わってもβのように生きていける。

そう、言い聞かされ、自分でも言い聞かせていたのに。

俺のΩに発情期が来ているのか!
どこですれ違った?
どこで近付いてしまった?
変異種Ωにとって、Ωの特性を決定的に身体に刻まれる発情期。
一度発情期を迎えれば、普通のΩのように番を得るまで周期的にそれは繰り返される。
もう後戻りは出来ねぇ。

βであれば得ることもなかった発情フェロモンを、自分の意志とは関係なく周りに撒き散らして相手を誘ってしまう。
βの男であれば考えもつかない、抱かれる側に立つことになる。

それをアイツに強いてしまったことを、俺は・・・俺・・・は、詫びなければならないのにっ


「ハッ」


震える身体を駆け抜けたのは、歓喜。
口角が上がり、嗤ってしまう。
俺のΩに発情期が!
咄嗟に胸元を掴んだ手は、抑えきれない喜びで小刻みに震えていた。
身体を交え、牙をそのうなじに突き立て、番にすることしか考えられない。
他のαが手を出したら、地の果てまで追い掛けブチ殺してやるっっ
この発情フェロモンは、俺だけのものだっっ


「ちょ、ちょっと、兄ぃ??
どうしちゃったんだよ??」

「おい、笹部?」


興奮し、息を乱す俺を二人が取り囲む。
邪魔だ、邪魔だっ
俺のΩのフェロモンが、その動きに乱され消えるじゃねぇかっ
ギロッと睨んだ俺に、空は顔を歪めて視線を反らす。
だが、菊川は動じない。
正気に戻らない俺への苛立ちを殺し、肩に手をかけてきた。
咄嗟に払おうとした右手首を捕まれ、ギリギリ軋むくらい、容赦のない力で締めてくる。


「落ち着け、笹部。
牙が見えてる。
俺と空なら問題ないが、他のαに見られたら敵対行為と見做されるぞ」
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