ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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29 学園祭

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「わっ、カッワイーーーッッ」


どうやら打ち合わせが終わったらしく、三人の輪から海が外れてこちらに走ってやってくる。
と、そのままの勢いで両手を広げて三枝に突撃。
その豊満で揺れる胸に抱きしめた。

油断していた三枝は、海の胸に顔が埋まりそのままホールド。
海の場合、ツナギの前面にあるジッパーが規格外の胸のせいで途中で止まり首元まで上げられていないからな。
直に胸の谷間に鼻が刺さったこの状況に、待機している人から「うわぁ」と羨ましそうな歓声まで漏れてくる。
海としては、グリグリ自分の頬を三枝の頭に擦り付けてじゃれついているつもりなんだろう。


「イヤーンッ、三枝センパーイ、サイコーッ
噂には聞いてたんだけど、すっごい可愛い~」

「んんっ」

「写真不許可なんて、勿体無いよぉ。
ねっ、ねっ、終わってからで良いから、海ちゃんと写真撮ろうっ」

「ふあっ、ふわっ」


海の胸で溺れている三枝に、その声が届いているようには見えないぞ。
ジタバタ四肢を動かし顔を真っ赤に染めた三枝は、窒息する前になんとか脱出。
海からフラフラしながら一歩離れ、ビシッとはいかなかったが険しい顔を作って注意した。


「うううう海ちゃんっ、慎んでっ」


呼吸困難なのか、興奮してなのか、息も絶え絶えだ。
傍から見ると、ウサ耳を着けたワンピースの少女と、プロポーション抜群なのにやや男勝りに見えるαの特徴がハッキリ表に出た女子のハグ。
目撃した人間は、この異色のカップルにザワザワしているが皆笑顔だ。
中にはもっと見たかったのか、離れた二人に「もう一回見たい」とコールする声まで聞こえてくる。
学園祭前の余興と思われていないか?


「エー、抱きしめちゃダメェ?
三枝センパイ、海のことキライ?」

「え?
そんなことないし、あと、抱きしめたらあかんとかやなくて、その、抱きしめ方があかんていうか。
えーっと・・・」


シクシク泣き真似まで始めた海に、根が良い三枝は一生懸命言葉を探し始める。
三枝じゃ、海に太刀打ちできないな。
面白がって手を出さない竹居と空は、近寄りもせずにニヤニヤ見ているだけだ。


「空、海を止めて・・」


くれないか、と俺は続ける筈だったんだが。
声を掛けた俺と目が合った途端、空は何故か三枝を上回る勢いで全身を真っ赤に染め、しかも額に汗まで浮かべてパクパクと口を開閉して狼狽える。
ん、なんだその反応は?
俺のこの格好は、さっきも見ていたしなんでそんなふうになるんだ??


「おい、空?」

「あー、ダメダメッ
あの、桜宮センパイ、空の一生のお願いだから、今日は空に近づいちゃダメーーーッ」


両手で顔を覆い、その場に座り込む空。
竹居も唖然。
え、なんだ?
なんでそんなことを俺は言われるんだ?

この直後、校門前の騒ぎに顔をしかめた松野から、さっさと集合しろと呼ばれて有耶無耶になったが。
結局笹部は現れず、それに誰も何も言わず、打ち合わせが終わるまで空は俺から身を隠すように海の背中から出て来なかった。
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