ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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29 学園祭

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10時の開場にはまだ時間があり、朝礼も各クラスに任されているから学園祭当日の登校時間はバラバラだ。
とはいえ、流石に8時半過ぎると、登校して準備に追われている生徒が多い。

廊下ですれ違う私服やコスプレ姿の生徒が足を止め、チラチラ視線を送ってきたり、離れた場所からヒソヒソと話をされていたりする。
その前を、手を繋いで通り過ぎるヤマはもちろん気付いてないようだ。
煌めき王子とかかな姫とかネコ耳とか。
明らかに俺達を指す言葉が聞こえて来ているのに。


「ヤマ、もう少しフェロモンを抑えてくれないか?」

「ん?
去年と同じくらいにしてるから、問題ないよ」


ヤマは、ちゃんと心得てるぞと得意げだ。
去年と同じということは、周りには「俺の宝物」と表示されているわけか。
今から、結果的に生徒会長と副生徒会長が二人同時に仕事を放り投げて雲隠れしていたことを怒られに行くようなものなのに、こんなに人目を引くフェロモンを纏っていたら火に油を注ぐことになるぞ。
ここは、反省しているのだと体裁を整える意味でも弱めてもらわなくては。

急に消えた二人が、こんなに甘いフェロモンをつけて登場したら何をしてきたんだと誤解されても仕方ない。


「半分くらいには、ならないか?」

「カナ・・・俺のフェロモンが嫌なのか?」


ヤマの眼は、一瞬で傷付き揺らいだ。
αにとって、フェロモンは自分の身体の延長線上にある存在。
それを否定されたと思わせてしまったのか?


「い、嫌じゃないぞっ」


慌てて何故弱めて欲しいかを説明したんだが、理由を聞いて復活したヤマは気楽に笑う。


「怒られるのは俺だけだし、カナがそんなの気にしなくていいよ」


アハハ~と声まで出して笑うその能天気さに、いやいや、そんなわけないだろうと頭が痛くなる。
確かにヤマの群れは、緩い縛りで上下関係もない。
リーダーのヤマに対して、αの中では最弱らしい竹居も容赦がないツッコミや指示までする。

だけど、だ。

さっきの発情は、フェロモンを爆発させた去年よりも酷い。
公共の場で番相手に発情なんて・・・そんな、無防備で本能に操られた行動を周囲に目撃させるなんて。
Ωが恥をかかせるために一服盛ったくらいに思われても仕方ないことだ。
・・・そうは、思われていないよな?


「もー、カナは考え過ぎだって」


ヘラッと笑いながら、足取りが重くなった俺を引っ張るヤマ。
このあと、まずは玄関前の音響トラブルで担当の体育館から呼び出されていた竹居に散々嫌味を言われ。
海と空からは、面白可笑しく誂われ。
調理室のブレーカーが落ちたり、廊下に撤去していた机が一部崩れたりの校舎内トラブルを処理し終えた松野からは無言で睨まれた。

俺だけが。

ヤマに言ったところで、「カナが可愛くて、つい」と悪びれず返され、それより仕事を進めようと軽く流されて終わっていたからな。
俺は発端のヤマの代わりにはならないが、反省していますと粛々と受け止め残りの仕事に戻った。
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