ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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29 学園祭

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「あー、そろそろ止めろ」


ヤマと一緒に袋の中を覗き込んでいた田栗養護教諭が、ストップをかける。
ヤマはそれに素直に従いドライヤーの電源を落とすと、袋から俺の衣装と下着を取り出した。
田栗養護教諭から隠すように背を向けて、つまりは俺の方を見て、それぞれ乾き具合を見ている。

ツナギ姿のヤマが、明らかに自分のものではない穴の空いてるショートパンツとボタン付きのボクサーパンツを広げてるとか。

なんでこんなことになってしまったのか、しっかり反省しなくては。
田栗養護教諭は、わざわざ噂を広げはしないだろうが、これを他の生徒に見られたら菊川家に申し訳がたたない。


「んー、まだ湿ってるかな」

「これから仕上げるんだから、心配すんな。
内側にドライタオルを挟んで、ドライヤーの熱風をまだ乾いてないとこに当てんだよ」

「こっちでするから、確認しに来なくていい!」

「へいへい」


ヤマは丸テーブルの上にタオルを広げて服を並べ、田栗養護教諭の指示どおり内側にタオルを挟みドライヤーで乾かしていく。
真剣にボクサーパンツを見られるのは、裸を見られるよりも恥ずかしいかもしれない。
いや、既に洗わせている時点でそこを上回っているから今更なのか。


「なーに覗いてんだ?」


ヤマの横顔を眺めていたら、いつの間に近付かれていたのか、田栗養護教諭に見下されていた。
布団を羽織り直して、「あはははは」と苦笑い。
田栗養護教諭は、それ以上深くはツッコまず話題を変えてくれた。


「菊川の暴走については、お前も気をつけてやれよ?
もっと冷めたヤツかと思ってたが、桜宮と絡み出してから無茶苦茶だからな。
熱くなんのは悪いことじゃないし、冷めてる方が不気味だったけどな。
熱烈な桜宮への愛情表現はやり過ぎだろう。
一昨年までは、いくつかの群れが牽制しあってぶつかったりのケンカはあったのにな。
あれが生徒会長になってから、菊川に表立って反旗を翻すαは一人もいねぇし、大人しいもんだぞ。
なんに牽制する必要があんのかねぇ。
Ωへの陰口も減って、うちのが入学したのが後押しになったのか・・・公にしてるΩの生徒にそれぞれファンまで付きだした。
こんだけ綺麗に均されると菊川が卒業してからがこぇーわ」

「あ、あはははは」


これにも苦笑。
気を付けるって、どうしたらいいんだ?
まさか、ヤマのいる前では聞けないぞ。
ドライヤー片手に、表面に触れたり、ひっくり返したり。
熱心に後始末をしてくれるヤマを力無く眺める。

俺がヤマをどうこうするとか、うん、無理だろう。
お願いして何かをして貰うことは出来るだろうけど、それより俺の方がヤマのお願いを聞きたいし、もっと甘えて欲しいし、頼ってほしいんだから。
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