ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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29 学園祭

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キュッと蛇口をひねる音がして、流水音が途切れた。
洗い終えたのかとホッとして、あとは乾かすだけだなとソワソワしながら待つ。
両膝を擦り寄せて、座り直してみるがどうも落ち着かない。
布団で覆っていても、流石に保健室のベットの上で一人下半身に靴下しか身に着けていないのは心許無い。

が、それにはヤマの不安に曇る声が後から続いていた。


「濡れたとこだけにしたかったのに、思ったより滲んだなぁ。
上手く乾くかな」


か、乾かないのか?
最悪、生乾きで着用して、そのうち乾くのを待つしかないか。
半ば諦めていたら、田栗養護教諭がゴソゴソと何かを用意し始めたようだ。


「ほれ、ドライヤーとドライタオルも貸してやるから、とっとも乾かせ。
あー、そっちのボクサーは結構濡れてんなぁ。
仕方ねぇから、この袋も貸してやるか」

「こら、覗くなよっ
って、そんな袋、何に使うんだよ?」


この高等部の仲裁役ができる教師と、成績優秀で歴代トップと評価されている生徒会長。
そんな二人に、自分の脱いだ下着とショートパンツの現物を眺められ、話題にされるているなんて。
い、居心地が悪すぎる。
しかも、田栗養護教諭には記憶が曖昧なところも目撃されているんだった。
カーテンが間にあるだけではいたたまれず、布団の中に頭まで完全に入ってしまう。
この場から逃げ出したいが、こんな格好ではどこにも行けない。
早く服を返してほしい。


「はぁ~、これだからぼっちゃんは。
生活の知恵だよ、知恵」

「なんで、袋の底に穴を開けるんだよ?」

「だから、知恵だっつーの。
いいから、とっととここに服を入れて、口にドライヤーを突っ込んでだな」

「言ってくれれば出来るから、触んなっ」


向こう側で何が起こってるんだろう。
田栗養護教諭の口調は、どこか楽しんでいる風でもある。
首から下げているネックレスで、このことは萩野にも筒抜けだ。
ヤマと教師に後始末をさせているなんて・・・萩野の冷ややかな視線に晒されるぐらいで済むだろうか。
ゴソゴソと顔を出して、呼びかけてみる。


「ヤ、ヤマ、あの、やっぱり自分でしたいんだが」

「あ、カナ?
今、先生に時短で乾く方法を教えて貰ったから待ってて」


いや、待ちたくないんだが。
俺がもう一度声を掛けるより早く、ドライヤーが稼動。
保健室にその唸り声が響く。

音が邪魔をして、声が途端に聞き取りづらくなる。
田栗養護教諭は、ヤマに一体何をさせているんだろう。
服を乾かすことと、袋も結びつかないし。

好奇心に負けて、もぞもぞベットの端まで移動。
そ~っと、カーテンの隙間から覗いてみると、ヤマが持っている透明のゴミ袋の中で、袋口から差し込まれたドライヤーの風に服が煽られているところだった。
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