ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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29 学園祭

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理解するより先に、身体が動いていた。
俺の足首を持ち上げて内腿の際を拭いていたヤマを突き飛ばし、足元に畳まれていた掛け布団を引き寄せ身体に巻く。

な、な、な、な、な、なななななっっ
なんだ?
何が起こった?
一生懸命記憶を手繰るが、濁ったフィルターが邪魔をしてところどころしかわからない。

わからない、が。

起き上がってきたヤマに、ありったけの大声で怒鳴るっ


「ヤマの、バカーーーーーッ」

「ご、ごめん、カナッ」


即座に頭を下げるヤマ。
散らかった記憶と、兎に角ヤマの発情が原因とわかるこの事態。
ヤマのバカッ。
番の発情に、Ωは一切抗えないんだぞっ
お前がしっかりしてくれないと、俺にはなす術がないんだぞっ

フーフー息が乱れて、次の言葉がなかなか出てこない。
なんであんなところで発情したんだっ
去年、一般来校者も巻き込んだフェロモン爆発事件より酷いぞっ
空や三枝だって、他の生徒も教師も居たのにっ

ヤマは、俺の怒りと羞恥混じりの目から言いたいことを汲み取ったらしい。
田栗養護教諭の耳を気にしてトーンを下げ、ボソボソ言い訳をしてくる。


「にゃあにゃあのカナのこと、思い出しちゃって」


にゃあ・・・っ

うぅ~、にゃあにゃあのカナは。
この猫耳をつけて猫の鳴き声でいる間の俺を、可愛い可愛いと褒めるヤマが名付けたものだ。
にゃあにゃあカナとも呼ばれてる。

遊びで休日に屋敷にいる時間、ずっとそれで過ごしたこともあるし。
ベットの上でも使っていた。
だから、あんなに一気に発情濃度が上がったのか。
猫耳なんてつけてするんじゃなかったっ

そんな俺の考えもヤマはお見通しらしい。


「え、もうしないとか、言わないでっ
絶対に学園祭の間は抑えるからっっ」

「わぁっ、バカバカッ
土下座なんかしようとするなぁあーーーっ」


大騒ぎしてる俺とヤマに、田栗養護教諭の冷静な声がかかる。
カーテンで四方を区切られているから覗かれることはないんだが、ヒヤリとした。


「おーぃ、菊川。
桜宮の衣装とか、洗って乾かすんじゃ無かったのか?
もう7時半過ぎてるけどいいのかぁ?」

「まずいっ
カナ、後でいっぱい怒られるから、今はこれを洗って乾かさせてっ
あと、学園祭の準備とそれから」

「わ、わかったから、俺の衣装を返せっ
予備の制服でも借りて、自分で洗うっ」

「それは、ダメッ」


キッパリと言い切られてしまった。
ヤマは、俺にタオルを渡し、衣装と下着を持ってカーテンの向こう側に出ていってしまう。
程なく、扉横の手洗い用洗面台から水の流れる音が聞こえてきた。


「はぁ、お前ら世間に公表して一年以上経つのにどうなってんだ?
そんなんで、よく中等部の間隠せてたよな」


カーテンの側に人の気配。
田栗養護教諭が、話し掛けてきた。


「あ、あはははは」


世間では、中等部の頃には互いに意識してた設定が生きている。
隠し通していたのに、番になったら急にオープンになって羽目を外してしまうのも、最初は仕方ないよねぇくらいに受け止められていたが。
そろそろそれも限界だろうか。
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