ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
688 / 911
29 学園祭

3

しおりを挟む
先に更衣スペースで着替えていた三枝が、仕切りの向こうで「凄いっ」を連発している。
週始めの前撮りが終わったとき、衣装チームがもっと改良するといって当日ギリギリまで粘ったのが俺と三枝と命の衣装だ。
三枝の声を聞いていると、一体何が変わったんだろうかと出てくるまで期待してしまうな。

長靴を履いた猫をモチーフにした俺とヤマのパネルの横には、不思議の国のアリスをモチーフにした柴田と三枝のパネルが並んでいる。
柴田が持ってきたレンタル用カタログから、衣装チームが2日もかかって選びに選んだのはジーンズ生地のジャケットとパンツ、そして肌触りの良さそうな白のベストとシャツだった。
これに、自分達で黒のオーバーサイズのハットと蝶ネクタイを作成。
これが、モコモコした柔らかい素材で作られていて、試しに命が被ったのも可愛かった。
柴田の腰から下げられた、縦が10cm程のレジンのトランプが何枚も引っ掛けられたチェーンベルトも手作りだ。
ジョーカーの柄を、柴田のモチーフである帽子屋にしているところが遊びなんだとか。

なかなか着る相手を選ぶデザインだと思う。
モデルの柴田は難なく着ていたが。
褐色の肌との相性も良くて、衣装チームは着替えた柴田を前に感無量だと無言で頷いていた。
普段の柴田は、命以外と殆ど話さないからな。
柴田を担当した生徒達は、この衣装が完成するまで言葉を交わせて嬉しそうだった。

去年は学園祭前から人気があったアリス姿の三枝が着る水色ワンピースは、もともと澪さんと陽太さんの結婚記念日に俺が着るためだけに作られたメイド服。
一日限定のコスプレ衣装なんだが、菊川家のと言うか、陽太さんと飛鳥さんの本気が怖い一品で元々の質が良い。
これを、去年はバスケ部のコスプレ喫茶で使ったんだ。
今回は、去年のものよりフリルがついた白のエプロン、それにブーツの代わりに白黒ボーダーのニーハイとエナメル質の黒の靴。
あとは、桂木から回収したウサギの耳と保管方法が悪かったらしく絡まっていた金髪のウィッグ。

アリス姿の三枝は、去年見ているせいか違和感も無ければただただ可愛い。
照れる三枝に、梛木委員長は胸を押さえて「可愛いに殺されるっ」と呻いていた。
これのどこに改良枠があると言うんだろうか?

パネルの二人は、背中合わせで手を繋ぎ正面を見て笑っている。
柴田のレアな笑顔に、このときの教室は無音。
瞬きも惜しいと被写体の二人を見つめ過ぎて、三枝が怖がっていたな。

ポスターには、お姫様抱っこはもちろん、恋人繋ぎ、壁ドン、顎クイ、体幹が鍛えられた柴田だから出来る腕に抱き上げて座らせる力技まで多種多様。
言われるままに平然とポーズを取りに行く柴田と、それをアワアワ照れて真っ赤になる三枝はそのまま撮影されている。

俺達が撮影のトップバッターで、後ろめたさからポーズの注文を全て受け入れてしまったのが悪かったんだろうなぁ。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

処理中です...