ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
683 / 911
28 学園祭準備 side 陸

13

しおりを挟む
「なんでもねぇよ」


その一言で強く押し切る。
深く関わるなと言外に匂わせれば、空は桂木に目を向けた。
俺から聞けないのなら、桂木からと思ったんだろう。
桂木は、空だけじゃなく海からも目を向けられ、何かを飲み込むように一拍置き。
迷いを断ち切るように、マグカップをコトリと机に戻すと、それまで合わなかった俺と目を合わせ穏便に済ませてやろうとしたのにわざわざ掘り起こしてきやがった。


「なんでも、はありますよ、笹部先輩。
もう一度、これまでのことを思い出してから答えを出してください」


・・・ハッ

この場を支配する田栗が居るからか。
やけに強気じゃねぇか。

俺を煽る言葉に、ユラリとフェロモンが身体から漏れて部屋にたなびく。
海と空は、ガタガタ椅子や机にぶつかりながら慌てて立ち上がり「「兄ぃ、落ち着いてっ」」と悲鳴を上げた。

俺の気迫にたじろぐ桂木。
だが、引かない。
机を挟み、俺に向かって剥き出しの感情をぶつけてきた。


「俺からすれば、何故そこまで笹部先輩が誤解しているのかがわからない。
三枝先輩のことを一番わかっているのは笹部先輩でしょう?!」


それが悔しいと、呻く桂木。
海や空は、三枝の名前が出たことで状況を多少は理解出来たらしい。
生徒会で同じ役職なのに距離を不自然にとってるからな。
互いに顔を見合わせ、軽く頷き止めに入ってくる。


「えーっと、カケルン、落ち着きなよ。
兄ぃにとって、なんかそこはヤバ目のツボみたいだからさ」

「そうそう、海ちゃんの言うとおりだよ、カケルン。
二人のことは、二人でなんとかしてくよ、きっと」


桂木を二人がかりで宥めにかかる。


「・・・そんなこと、俺だってわかってるさ。
だけど、こっちが口を出したくなるくらい、笹部先輩は一方的でそのくせ決め手に欠ける。
あれだけ傷付けて、中途半端に放り出して、あんたは何がしたいんだ!!」


怒りに任せ、桂木が机にドンッと拳を叩きつけた。
それまで静観していた田栗が、初めてここで口を出してくる。


「おいおい、備品を壊すなよ~」


止める気はねぇのかよ。
桂木から目を逸らし、田栗に呆れた俺の態度が気に食わなかったんだろう。
桂木は、あからさまにイラッと顔を引きつらせた。


「三枝先輩には悪いけど、拒むならハッキリ拒んでください。
今の状態じゃ、三枝先輩が気に病んでそこから一歩も抜け出せない」

「はぁ?
気に病む?
そんな柄かよ」


心に微塵もねぇことを、さも真実のように口にする面の皮の分厚さは、桂木には全く見抜けねぇようだな。
好きだと言われ、その事実に突き当たったときの俺の気持ちなんざ、お前にわかるわけがねぇ。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

至宝のオメガ

みこと
BL
アドリア大陸一の軍事力と豊かさを誇るバートレット帝国。 隣接する小国のひとつであるサリエル公国は度重なる他国の侵略に頭を痛め、バートレット帝国に庇護を求めた。帝国は庇護の条件に、膨大な魔力と強力な戦闘魔法を持ったサリエル公国の王女ニケーアとの婚姻を要求し協定を結んだ。しかし輿入れしてきたのはニケーアではなく王子でオメガのルイーズだった。ルイーズには魔力もほとんどなく、戦闘魔法も使えない。「約束が違う‼︎」と憤る第二王子だがルイーズには他国に知られていない秘密があって…。 オメガバースです。オメガバースの説明はありません。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...