ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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28 学園祭準備 side 陸

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「笹部先輩、今、お時間いただけませんか」


話しかけてきた桂木の表情は、一瞬怪訝なものに変わった。
俺が自分の感情を持て余し、目の前の相手を睨むべきか平静を装うべきか迷ったせいだ。
直接何かされたわけでもねぇんだから、平静であればよかったのに。

こうやって一対一で話すのは、初めてだ。
なのに、なんでこんなに目障りだと思うんだ。
わけがわからねぇな。


「はぁ?」


遊びでこっちがうろついてるとでも思ってんのか?
返した声や目に、自然と険が含まれる。
ただでさえ、強面だの、とっつきにくいだの岬に言われているんだ。
過剰な圧に、桂木はうぐっと押し黙ったまま目を伏せた。

こんな格下相手に、なんで余裕がなくなるんだ。
理由はわからないのに、コイツは確実に仕留めるべき相手だと本能が告げてくる。
歯牙にもかけない、こんなやつをか??
気の迷いだと切り捨てるには、生まれた感情はこの短時間で育ちすぎていた。
コイツを前にして感じんのは、嫌悪では無く明確な敵意。
自分じゃない何かに乗っ取られているような奇妙な感覚、違和感さえあるのに消すことができない。
ありもしない感情を押し付けられ、胃を抑えたくなるくらい気持ちが悪い。
酷い消化不良に眉間に皺が寄る。


「おーーーーーっと、兄ぃ、私を見に来てくれたのかなぁ???」


一方的に苛立つ俺と、答えを待つ桂木。
そこに、白々しい声で割って入ってきたのは海だった。
対峙する俺と桂木の不穏な空気を察して、劇を抜けてきたらしい。
力の入った両肩に、恐る恐る手をのせてこちらを気遣ってくる。
桂木に何かしようとしているとでも思ったのか?
気が付けば、このクラスの生徒全員の目はこっちに向いていた。
教室の中央で、誉も凛も他の生徒も動きを止め、海と俺を不思議そうに見てくる。
海のせいで、悪目立ちし過ぎだ。


「ちげぇよ!
おい、桂木」


顎でついて来いと示し、ざわつく教室を後にする。
海がついて来ようとしたが、それを止めたのは桂木だった。


「海、二人で話したいことがあるから」

「え、大丈夫なの??
結構ヤバい感じだったんだけど」

「問題ないし、劇を続けててくれ」


廊下を抜けた先の階段下まで来ると、そこに固まっていた一年生が慌てて走り去っていった。
フェロモンは抑えているが、苛立つ気配は消し切れてねぇんだろう。


「話って、なんだよ」


根拠がない感情に振り回されていることを、コイツに気付かれたくねぇな。
さっさと終わらせるつもりで話を振る。
桂木は、わざわざ俺の真正面まで寄ってくると、意を決したように顔をあげた。


「三枝先輩のことです」


ザワリ。

内側から押し上げてくる不快感に、口角が下がる。
俺とお前、手玉に取られてるα同士で何の話をしようって言うんだ。
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