ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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28 学園祭準備 side 陸

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田栗は、落ち込んだ俺の表情を眺めて緩く笑う。
哀れみも同情もそこにはない。


「ま、お前んとこは、責任の重みが違うから大変だな」


αやβのバース性を壊し、自分のΩを創造する能力。
相手の僅かな好意さえ逃さず、番の強制を迫る厄介な力。
田栗が、過去にやらかしてることまで含めて聞いてんのかは知らねぇ。
そこまで、深く突っ込んで聞いたことがないしな。
だが、俺に大変だと声を掛けるくらいだ。
きっと千里さんは言ってないんだろう。
大変なのは、俺じゃなくカッキーだしな。

俺はただ、親から相手に会わずβと同じ生活を保障するのも責任の取り方だと言われ続けて、それに従っているだけだ。
大変じゃねぇと否定はしたいところだが。


「・・・仕方ねぇよ」


広いくくり、笹部家全体への言葉と受け止め返す。
時代が変わってΩの地位が上がったところで、わざわざΩになりたい人間がいるわけねぇんだから。
そこは、諦めて受け入れて気を付けてくしかねえんだ。

あの夏。
暇でブラブラと里を歩いていた俺に、「はじめまして」と笑顔で話しかけきたカッキー。
格好から女かと思ったら、男で。
里で妹達と遊ぶことにうんざりしていた俺には、格好の遊び相手だった。

森で虫を取り、川で遊んで、里中を走り回った。
一緒に飯を食って、昼寝して。
海や空にも教えたことが無かった、ヤマグワの群生場所にアイツを誘って何個も採ってやった。
口の中が赤く染まるくらい、美味しいと頬張っていたあの顔は忘れられねぇ。

α同士のマウントもねぇし。
他のβみてぇに遠慮もしねぇ。
同じ群れに属してるわけじゃねぇのに、一緒にいるのが楽しくて、このままカッキーと過ごせる夏休みがもっと続けばいいのにと何度も思った。

ヤマグワの帰り道。
川に落ちて流され、真っ暗な森で一夜を明かしたときに分けてもらったチョコレート。
直後に高熱が出て苦しむカッキーを見て。
大丈夫かと声をかけながら、目の前でΩに変わるカッキーの姿に一欠片も喜ばなかったと言えば嘘になる。
好きだと自覚したのもその時だ。

本人には、頃合いを見計らって変異種Ωになっていることを告知すると聞いている。
それなら、そろそろか、した後か。
俺の近くにいるだけで、発情フェロモンが出ちまう危険な年齢になってるしな。

アイツは、事実を知ってどうしているだろう。
俺を恨んでるよな。
殺してやりたいと憎んでいるかもしれねぇ。
笑顔が似合ったあの顔を歪め、俺を呪っているだろうか。
俺の中では小学生のまま。
あの笑顔しか思い浮かばねぇ。

万一のことを考えて、俺の生活エリアや移動先は逐一相手の親には知らせてるらしい。
殺してやりたいと願っても、会えば発情させられるなら会いに来ることはねぇよな。

そこまで思い至って嗤うしかねぇ。
会ってどうする?
謝るくらいじゃ足りねぇ。
掛ける言葉なんて、元からねぇ。
赦されるわけがねぇ。
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