ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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27 学園祭準備

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東の離れに戻ると、隣で少し前を歩いているヤマを見る目に自然と力が籠もる。

よし、やるぞ!

気合を入れたら、ヤマと繋いでいた手にも力が入ってしまいヤマから「カナ??」と心配されたがうまくごまかす。

今日は、ヤマを俺がとこっっとんっ、甘やかす!

固い決意に、俺は燃えていた。
あんなにヤマが、フェロモンレイプで俺を傷つけていると思っているなんて知らなかったからな。
そんなことはないんだと、言葉を並べてもきっと全部は届かない。

俺が、Ωである自分のことを認めて、周りに気を使わずにヤマの隣にいることが出来ているのは、ヤマが俺を甘やかしてこのままの自分でいいんだと自信をつけさせてくれているからだ。
だったら、俺がヤマを甘やかすことでヤマにも自信をつけて欲しかった。

そう、思ったんだ、が。


一時間と少しあとの東の離れ。
脱衣所に置かれた椅子に座る俺。
その後ろで、静音ドライヤーを片手に俺の髪に指を絡めているヤマ。
今日の寝間着は、お揃いの黒のシルクパジャマ。
ヤマの伸びた髪はまだ濡れていて、水が滴らないように無造作にゴムで小さなお団子になるよう一括りにされている。
パジャマが濡れないように、首にかけたタオルの上でおくれ毛がはねているんだが。
その格好にさえ、俺は色っぽくて男らしくて心が掴まれてしまう。

洗面台に映るヤマに見惚れていると、黙っていれば男前すぎるその顔がふにゃあと可愛い顔になる。
ヤマの垂れている瞳が、一層崩れるその笑顔に俺は弱いから困る。


「ん?
どうしたんだ、カナ?」

「な、なんでもない・・・」


ことは、ない。
おかしい。
俺がヤマを甘やかすと決意したのに、気づいたらいつもと同じ。
一緒にお風呂に入って、身体を互いに洗ったり、触れたり、今日あったことを話しながら湯船に浸かって後ろから抱きしめられて、そのあとで髪を乾かして。
きっとこの後はティータイムになって就寝してしまう。
このまま流れに身を任せてしまうと、ヤマを甘やかす時間が無くなってしまう!


「カナの髪の毛、洗い立てだといつもよりふわっふわで可愛い~」


俺の気も知らないで、自分が髪を乾かそうとすれば指に引っかかってイライラしてしまう癖毛まで手懐けている本人は甚くご機嫌だ。
俺もつられてふにゃあと口元が緩んでしまうじゃないか。
二人きりの時、俺のことを語るヤマの声は一段と甘くなる。

桜宮家のΩとして、親族会議で選ばれた相手の番となって相手を引き立てるために生きていこうと覚悟を決めていたというのに。
言葉だけじゃなく、ほかのことを語る声にまで好きだよと含む相手と番になっているこの現状。
なんでヤマはこんなに満たされている俺が幸せになれていないなんて思うんだろう。
不思議でたまらないぞ。
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