ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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27 学園祭準備

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無言で頷いたヤマから額を離す。
ヤマの固い表情が、沸き上がる不安に無理矢理蓋をしようとしていることを伝えてくる。
フェロモンレイプの被害にあった自分より、そのことで俺が傷ついたことを気にしてるヤマ。


「バカ、俺の言葉を信じろ」


コンッ

軽い頭突き。
突然の至近距離からの攻撃を受けても、ヤマの身体は少し揺れただけ。
きっと、避けようと思えば避けれたんだろうな。
それくらいに、余裕も感じる。

だが、張り詰めていた気持ちを緩める効果はあったらしい。
瞬きするヤマの顔から、悲壮感は消えていた。


「松野、倭人さんの隣に俺の名前を書いて貰えるか?」

「・・・あぁ、わかった」


松野は、何か言いたそうに一度開いた口を閉じてから了承。
『巡回担当 菊川』の続きに『桜宮』と追加。
ヤマが嬉しいと微笑み、握っていた手をやっと解放してくれた。
少しは不安が取り除けたんだろうか?
帰ったら、改めてヤマに伝えないと。

ポケットから取り出したハンカチで涙を拭いていたら、海と空が身を乗り出して話しかけてきた。


「「生徒会チョーを泣かせるなんて、すっごーーぃ」」

「忘れろ」


松野が即答。
二人の視界に、持っていたプリントを広げて追い払ってくれる。
まだ、一年生の間では、ヤマが俺が絡むとこんなに涙脆いとか、Ωに頭突きされても受け入れてしまうとかはバレてないからな。
最強の煌めき王子のまま、生徒会長の任を終わらせておきたい。
しっかりしろと、両膝をついたままのヤマを睨んだつもりなんだが。
その笑顔が一層緩んだだけだった。

いつもなら、ここに自分が変異種Ωと分かってからも番に夢を見ている三枝が高まった気持ちをぶつけにくる頃なんだが。
「相変わらずラブラブやなぁ」の声は、来ない。

一番端の席に座った三枝は、向かいの笹部を意識し過ぎて生徒会でも上の空だ。
今も、こちらの騒ぎに加わらず座ったまま手にしたプリントの上でふらふら視線をさ迷わせている。
笹部は、この会議が始まる前から機嫌が悪いことを隠そうとしてなかった。
今も、椅子に深く腰掛け足を机上に投げ出している。
配布されたプリントには目を通してはいたが、直ぐに手から離して目を閉じたままだ。

正直、笹部に食堂でフェロモンをぶつけられてから、笹部の印象はガラリと変わった。
中等部の頃から問題児で、喧嘩っぱやい馬鹿と認識していたが、喧嘩を売りに行かない俺はからかわれるだけで済んでいた。
生徒会室でフェロモンの余波を受けたときは、こんなに強かったのかと単純に驚いただけだった。

だが。

あの食堂のフェロモン。
三枝にぶつけられた余波ではあったが・・・あれを受けると、もうわからないふりは出来ない。
初めてコイツが力のあるαだと、恐ろしい相手なんだと実感してしまった。
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