ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
639 / 911
26 体育祭 side 翔

21

しおりを挟む
「はぁ?!」

「アーッハッハッハッ!」


グラウンドであんぐり口を開いた田栗先生と。
隣の本部テントから響く爆笑。
田栗は、キッと本部テントの主を睨んだ。


「お、叔父さん、笑わなくてもっ」

「ヒィーーッ、腹がよじれるっっ
アイツにダーリンって!!」

「叔父さんが教えてくれたのにっ」


声の主と田栗の間に立っていた人の壁が割れ、本部テントの中央席に座っていた学園長が大笑いしている姿が俺からも見えた。
髪や目の色は田栗と同じブルーブラックで、サイドとバックを田栗より刈り上げたショートヘア。
涼やかな目元はよく似ているけど、田栗のような見惚れてしまうような麗人という印象はない。
砕けた親しみやすさを絶えず出していて、優生αには珍しいタイプだ。
混合バース性のこの学園を取り仕切るだけのことはある。

でも、さすがにこの爆笑する姿は初めて見るな。
周りもどう接してよいのかわからず当惑。
本部テントで応援しようと立ち上がっていた他の来賓や放送担当の生徒は、学園長と田栗に挟まれ気まずい雰囲気だ。


「いやぁ、まさか、本当に呼ぶとは思わなかったし。
誉は、相変わらず源蔵のこととなると可愛いなぁ」


クックッとまだ笑っている学園長から、田栗はふくれ面で視線を外した。
田栗は中等部から知っているけど、こんな崩れた顔もするんだな。
怒っていると言うより、これ以上何をいっても無駄だと諦めているように見える。

田栗はストンと椅子に腰を下ろし、離れている田栗先生に向かって手を合わせ謝る。
すべてを察したらしい田栗先生は、学園長を軽く睨んで溜め息。
周りの生徒や教師から囃し立てられても、軽くあしらっている。


「なんなん?なんなん?」


三枝先輩が、興味津々に瞳を輝かせて尋ねると、田栗はムゥと口を尖らせボソボソと答えた。


「田栗先生、自分の名前はあまりお好きじゃないみたいで。
でも、私としては、公の場で皆と同じ田栗先生は嫌だし、叔父さんに相談していたんですよ」
 
「田栗先生の名前って、なんやっけ?」

「三枝セーンパイ、ゲンゾーだよ」


誉より先に、海が答える。


「ゲンゾー?
ん、まぁ、最近はあんま無い名前やけど、変ちゃうやん?」

「ですよねっ」


田栗のテンションが急に上がる。
三枝に向かって、いかにこの名前が田栗先生らしくて格好良いかを語りだした勢いが止まらない。
機嫌も一気に回復したらしく、満面の笑顔は年相応の幼さが出ていて海が「ホマレン、可愛いっっ」と自分の大きな胸に抱き寄せ頬擦り。
本部テントからは、この様子を眺めていた学園長の笑う声がまた聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

処理中です...