ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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26 体育祭 side 翔

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田栗 誉は・・・俺にとっては、中等部で同じクラスになったこともあったので未だに茅野 誉の方が馴染んでいる。
Ωでこの田栗先生の番で結婚までしたという方が現実味がない。
教科書を持った左手の薬指に指輪を見ても。

茅野学園理事長の甥にして、頭脳明晰、眉目秀麗。
中等部では、誰もが誉のことを認めていて、悪く言う雰囲気さえ無かった。
微笑みの貴公子なんて愉快な呼び名も、誉だとしっくり嵌まり、礼儀正しいファンクラブがその周りを常に囲っていたからな。

てっきりαだと思っていたから、フェロモンも使わずに周囲を統率するなんて凄い同級生だと感じていた。
が、田栗先生の前ではΩの顔全開だ。
今も、『うちの』呼ばわりにトキメキ、教科書で赤くなった顔の目元まで隠して照れている。
そんな誉に、田栗先生は苦笑いだ。

あの入学式直後は、年の離れた誉を騙した悪徳教師とか、たまたま発情期に居合わせたラッキーαとか。
誉を慕っていたβからも、Ωとわかっていたなら自分こそがと悔しがるαからも、田栗先生は影で散々な言われようだった。

ただ、今までは言葉を交わすだけで相手を虜にしてきた誉が。
田栗先生の隣にいると、声を失ってしまったのかと勘ぐるくらいに無口になり、モジモジ顔を赤らめたり、無精髭にほぅと見惚れたり、すっかり受け身。

俺は直接見たわけじゃないけど、毎朝保健室に寄ってから教室に来る誉の日課は、朝の準備をしている田栗先生をひたすら目で追うことらしい。
ファンクラブは、さらにその外周で見とれてる誉に見とれるというカオスだとか。


「え、ホマレンが読んでくれんの?」

「は、はぃ」


コクンと頷く言葉少ない誉。
三枝先輩のホマレン呼びは、明らかにあの双子の影響だ。


「うぅー、じゃぁ、リレーまでは寝ようかなぁ」

「そうしとけ、そうしとけ。
リレーも、ここなら特等席で見れる。
すぐそこがゴールだしな」


田栗先生は、隣の本部席前を指差し促した。
三枝先輩は、「なら、そうしようかなぁ」と背中を押され、こちらに歩いてくると。
靴を脱いで、俺のすぐ隣に寝転んだ・・・え、こんな近く?!


「桂木君、大人しく、昼寝しとこ」


まだ座っていた俺の服を引っ張り、誘う三枝先輩。
衝撃の展開に固まったままの俺の頭の上では、誉の朗読が始まる。
抜粋された文学小説が、朗々と読み上げられると、先に寝ていた三人と同じく三枝先輩もスヤスヤ寝息をたてはじめた。

俺の服を掴んだまま。

こんな状況じゃ、ちっとも休まらない!
なかなか横にならない俺に痺れを切らした田栗先生から突っ込まれるまで、飽きることなく三枝先輩の寝顔を眺めてしまった。
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