ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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26 体育祭 side 翔

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だけど。
まだ、諦める必要はない。

まるで俺の気持ちを察したかのように、ビリビリ背後から追ってきた殺気紛いの視線が強まり足元から熱を奪われる。


「もぉ、桂木君、ほんまにやめてや?」


気付いていない三枝先輩から、口を尖らせて睨まれた。
曖昧に頷きながら、床を踏み締める足裏に力を入れ直す。

振り返らなくても、これが笹部先輩の視線であることは武道館に足を踏み入れた時から感じていた。
開いた扉の向こう側から注がれる、フェロモンのように強烈な苛立ち混じりの視線。

まだ、三枝先輩は笹部先輩のものにはなっていない。

笹部先輩の胸で泣いていた三枝先輩。
あの日の二人の間には、俺が立ち入る隙間なんて感じないくらい強い絆を感じたのに。
なぜか、三枝先輩に好意を寄せていると公言している俺は放置されたまま。
笹部先輩は、三枝先輩に所有フェロモンをつけていない。
今日は、むしろ三枝先輩と距離を取り、近くにいる俺をこんなに意識しているのに妨害にも現れない。

つまり、俺には三枝先輩を振り向かせる余地が残されている。

一昔前なら、強いαが望めば相手の気持ちはお構いなしに誰であれ手に入れることが出来た。
でも今は、Ω人権の見直しで強いαでもフェロモンの強さが全ての理だと世間を丸ごと黙らせることは出来なくなっている。

三枝先輩が完全に笹部先輩のものになる前に、俺が三枝先輩の気持ちを手に入れるんだ。

俺にとっての三枝先輩は、男女の性差も、バース性の垣根も飛び越えた存在。
きっと、この人以上に誰かを好きになることなんて考えられない。

三枝先輩、どうか、俺を選んでください。

笹部先輩が残る武道館を後にして、二人並んで騒がしい廊下を歩く。
一日目の体育祭も、残り一時間。
諦めムードの生徒と、明日も頑張ろうと燃えている生徒の落差が激しい。


「あの、三枝先輩」

「ん?」


このまま教室に向かおうとする三枝先輩を、俺の方へ手繰り寄せる。


「最終のバスケ試合に、俺、出るんです。
見に来て頂けませんか?」

「え、そうなんっ
見に行く、見に行くっ」


笑顔での即決に、決意がより強固になる。
俺は、三枝先輩が欲しい。
強者の笹部先輩に逆らっても。
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