ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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25 体育祭

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「お、おいっ、なにやってんだ!?」


カウンターの向こうから、身を屈め、顔だけ出したスタッフが声をかけてきた。
笹部のフェロモンが奥の厨房にも広がったことで、こちらの様子を見に来てくれたようだ。
若い男性スタッフは、βだろうか。
笹部のフェロモンに怯えはしているが、緊迫したこの状況に仲裁に入ろうとしてくれている。

正直、助かった。
Ωの俺と三枝では、笹部のフェロモンに対抗なんて出来ない。
フェロモンには、フェロモンで対抗するしかないからな。
しかも、三枝への余波を被ったにすぎない俺でさえ、精神の消耗が激しくてこれ以上のマウントは立っていられそうにない。
膝がガクガク震えていた。

生徒会室のときより、酷い。
冷酷で冷徹な、敵意むき出しのフェロモン。
これが、笹部のフェロモン、か。

だが三枝は、正面から笹部の怒気を孕むこんなにきついフェロモンを受けても。
真っ青な顔で、カタカタ細かく身体を震わせながらも。
拳を握り、歯を食い縛り、笹部を見返すのを止めていなかった。
βだけの地域で暮らしてきた三枝には、フェロモン自体に免疫がないのに。

あぁ、このまま笹部の気が収まれば。

高等部の生徒の出入りは、体育祭中は自由だが流石に騒ぎを起こすのはまずい。
しかも、俺達は全員生徒会役員だ。
いくら笹部でも・・・


「あ"ぁ?」


苛立った笹部の矛先が、そちらに向く。
睨まれたスタッフは、即座にカウンターの下に顔を引っ込めた。
部外者からの横槍に、笹部は気が削がれたのか舌打ち。
そのまま背を向け、足音を荒げながら食堂から出ていってしまう。

ホッと一息つきたかったが。
本人がいなくなっても、食堂に充満した笹部のフェロモンに俺達二人は身動きがとれない。
食堂のスタッフ数人が、笹部が去っていったことを確認してからこちら側に出てきて窓を開けて換気をしてくれた。
その場に崩れるように二人して膝をつく。


「大丈夫、ですか?」

「はい、あの、すみません、御迷惑をお掛けして」


床に広がったオレンジジュースの後始末まで、スタッフは何も言わずにしてくれていた。
三枝は・・・膝を抱えて泣いていた。
自分の気持ちを否定され、拒絶され、フェロモンで真っ向から攻撃されて。
俺は、なんと声をかけて良いのかわからず、黙ってその横に座ることしか出来なかった。
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