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25 体育祭

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三枝は、驚いて何度も瞼を瞬き。
直ぐに受け取ってもらえなかったからか、笹部は困った顔をしている。
三枝は、笹部が勝手に選んだものに抵抗は無かったようだ。
目の前の紙コップと笹部の顔を何度も見比べていたが、壊れ物に触れるような慎重さで恐る恐る両手を伸ばした。


「あ、ありがとう、笹部君」

「ん」


ぎこちない笑顔を浮かべた三枝に、笹部は軽く頷く。
短すぎる返事だが、口の端が微妙に上がっていて頬が若干緩んでいた。
ホッとしている、のか?
笹部のヤツ、βの三枝の緊張を取ろうとしていたということか?

他人に気を回すなんて、しかも、それがβだと認識している相手になんて・・・明日は雪でも降るんだろうか。
思わず、快晴の青空が広がる窓の外を見てしまった。

その場から動かなくなってしまった二人を前に、座らないんだろうかと不思議に思いつつ行儀が悪いが立ったままストレートティーで乾いた喉を潤す。

そもそも、笹部にとって三枝は嫌う対象にはならない筈なんだ。
笹部が所属するヤマの群れの中で、Ωやβは保護すべき対象として認識される。
それは群れのルールで、個人の感情より優先される。
さすがの笹部も、ルールを無視してβ相手に感情でムキになるほど馬鹿なαではないと思いたい。

こんな風に気を利かせるところなんかは、Ωの俺や樟葉より扱いが上だしな。
いや、ヤマ相手にだってコイツが気を使うところは見かけないし、三枝のことは笹部なりに可愛がっているんじゃないか?

・・・いやいや。
俺が知っている笹部は、いくら同じ群れに居てもβを可愛がるようなヤツじゃないぞ。

笹部にとって、三枝は今の段階でどんな位置にいるんだろうか。
これから恋愛への進展を望む三枝にとって、かなり重要なことを考えようとしていたんだが。


「あ、あんな、笹部君ッ」


意を決した三枝が、考えをまとめる前に口を開いた。
力を込めた手の中で、紙コップがへこみそうになり慌てて持ち直す。
笹部は三枝の余裕の無さに、苦笑い。
ちょっと待ってくれと一度話を止めさせ、自分の飲み物を購入。
三枝に落ち着く時間を与えている、ように見える。
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