ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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23 新生徒会

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「帰って頭冷やすわ」


笹部は、一度目を閉じ気持ちをなんとか落ち着けたようだ。
クシャッと前髪をかきあげて、ヤマに断りをいれる。
詰め寄ろうとしていた樟葉先輩も杉本先輩も、ピタリと動きを止めていた。

笹部は静かに立ち上がると、誰にも目を向けずに床に置いていた鞄を掴んだ。
部屋を一瞬で凍りつかせたフェロモンは霧散していたが、笹部を怖れる空気は消えていない。
笹部の動きに、皆の視線が集中する。

これだけ近い距離から多人数に見られているのに、笹部はなんの反応も示さない。
あんなに嬉しそうに見ていた袋にも、完全に興味を失ったようだ。
そのまま、生徒会室から去ってしまった。


「うっわ、笹部、何にキレたんだ?
あんなん、久しぶりじゃねぇ?」


竹居は、扉が完全に閉まるのを見届けてから大袈裟な身ぶりで胸を撫で下ろす。
たったそれだけのことだったが、場の凍った空気が和らいだ。
笹部の背中を睨んでいた樟葉先輩も杉本先輩も、この場から相手がいなくなったので椅子に大人しく座り直した。

松野も、そうだなと頷いて俺の真後ろにいるヤマを振り返る。
群れのリーダーであるヤマに、答えを求めているのか?
ヤマは肩を竦めるだけで答えない。

俺にもよくわからない。
誰か、笹部が怒るような話をしていたか?

ヤマは、俺が床に落とした袋を拾い、俺の手に戻そうとしてくれたんだが。
震える指先に力が入っていないことを察して、椅子に座るよう椅子を引いて勧めてくれた。
だが、笹部のフェロモンに気持ちが蝕まれたときの感触が抜けていない俺は、すぐに座るのを躊躇いヤマを見返す。

ヤマが笹部の名前を呼んだ時点で、息も吐けなかった笹部のフェロモンを押し退け、ヤマの優しいフェロモンが俺を包み込んでいた。
けれど、あんなに冷たいフェロモンを感じたのは初めてで、それがいつも馬鹿にしていた笹部なのだから・・・まだ、うまく理解できないでいる。

こんな不安な状態で、ヤマから一歩も離れたくない。
ヤマの腕を取り、自分からヤマにピタリとくっついた。
正直、竹居からからかわれるかと思ったが、今回は何も言われなかった。
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