ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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22 夏休み side 命

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「急げ、柴田、樟葉っ
花火の時間が迫ってるぞっ」


関係者席が見えてくると、かなちゃんが区分けのために張っているロープの縁で両手をバタバタ上下に振って待ち構えているのが見えた。
手には、関係者席で配布される今年デザインのうちわが握られている。

かなちゃんは、夏祭りに初めて参加したんだって。
初めてが規模の大きな御珠神社のお祭りだから、一週間前に会ったときも二重にワクワク期待していたんだよ。

今も、キラキラ周りまで照らしそうなくらい顔が輝いてる。
お祭りを楽しんでくれてるのが伝わってきて、僕も嬉しい。

関係者席に座っていたαの中には、樟葉の名前を聞いてこちらを振り返る人もいたけど。
僕は気にせずに手を振り返した。
かなちゃんの後ろから、麻野君がピョコッと顔を出して小さな身体を伸ばしてブンブン力一杯右手を振って応えてくれた。


「こっちッスよ、樟葉先輩っ」


良かった。
麻野君も合流出来たんだ。
三枝君もわざわざ出てきてくれて、三人で並んで「早く、早く」と呼んでくれる。
菊川君が珍しくかなちゃんの隣に居ないのは、僕がさっき気を失ったからかな。
松野君と二人で、三人が誰かに絡まれたりしないかハラハラしながら見てるんだろうな。


「みこちゃーん、後1分も無いでぇーっ」


1分も無いと言いながら、誰も席に戻ろうとしていない。
僕が辿り着かないと、皆も花火に集中できないね。

僕に友達が出来て。
一緒にお祭りも参加出来て
こんな風に名前を呼んでもらえるなんて。


「ねぇ、けぇちゃん」


胸が熱くなって、鼻がツンと痛む。
涙は我慢出来たけど、声の震えは抑えられなかった。
僕が転けないよう手を引いて、関係者席に向かう足を早めていたけぇちゃんが慌てて振り向いてくれた。

そんな、不安そうな顔しないで。
僕は大丈夫だよ。


「残りの学校生活、めぇいっぱい楽しむねっ」


けぇちゃんの不安が少しでも軽くなるように、努めて明るく声を張ってみた。
けぇちゃんは、黙って手をギュッと握り返してくれた。
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