ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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21 夏休み side 倭人

2

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別れ際、車中でカナにキスしたかったのに、カナはこのあとの予定が気になっているからだろう。
ソワソワしていて、全然寂しそうじゃなかった。
「美味しいパン、楽しみにしてるな!」って、むしろニコニコ期待されて送り出されたしなぁ。
・・・よし、カナのためにも美味しいパン作らないとな!

気持ちを切り替えて、成形を続ける。

南の離れに入れる日が来るなんて、兄貴と遥馬さんがここに住むことが決まったときには考えられなかったことだ。
兄貴は、遥馬さんに近付くαは許さないと終始ピリピリ。
弟の俺にまで容赦無しで攻撃してきてたし。

「改めてよろしくお願いします」って、遥馬さんと挨拶してるだけでも、威嚇をすっ飛ばして制圧フェロモンを巻き付かせてきたから足がすくんで一歩も動けなかったんだよなぁ。

あの頃は、番にしたΩなら誰にも取られないのになんで兄貴はこんなことしてくるんだって不思議で理解できなかったけど。
今ならわかる。
俺も、カナに近付くαは全員潰したいし。
番にしたから安心できるなんて欠片も思えない。
番の繋がりは変えられなくても、気持ちはわからないんだ。
カナがもしも他のαを好きになんてなったら・・・無意識に力が入りすぎて、パン生地からクリームが飛び出てしまった。
兄貴にバレない内に、平静を装って直しておく。

まぁ、元々兄貴は、遥馬さんのことが無くても俺に話しかけてくることは無かったし、俺が話しかけても無視されることが多かった。
遥馬さんが菊川家に入ってからは、完全に敵認定だったけど。

その頃に比べたら、こんな懐まで入れるようになったし、話もできる。
あながち悪いことじゃないんだけどさ。
兄貴と遥馬さんの結婚式をここでして以降、パン作りを毎回俺に依頼してくるのは正直止めて欲しいんだよな。

なんでも上手く立ち回れそうな兄貴だけど、手の温度が低いからパン作りには向いてないらしい。
俺は人より温かいし、兄貴が作るよりも上手く作れるからって指名されるようになってしまった。


「あのさぁ、こんなに必要か?」


成形し終わったパンをずらっと並べて首を傾げる。
兄貴に言われた通り、小ぶりに作ったからだろうけど30個以上あるぞ?
この菓子パンだけじゃなくて、そっちでドリアやパスタ、デザートまで用意してるよな??


「あ"ぁ"?!」


ギロリと睨まれ口をつぐむ。
「誰のせいだ?」と不機嫌な視線に、俺は発酵が終わるまで客間に逃げた。
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