ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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20 夏休み side 翔

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階段を降りきり、お母さん方の集団が固まっている場所に目を向けるとすぐに三枝先輩のお母さんが見つかった。
ちょうど下りてきた通路の左側。
前から2列目、端から3席目。
両隣のお母さん方と、応援よりお喋りに夢中だ。

座っている列の端まで小走りで上がり、周りの声に負けないように少し声を張った。


「三枝さんっ」


それでも、後ろからの元気な生徒の声援に声が散ってしまい届かなかったらしい。
俺の前に座っていたお母さんが気付いて、2席向こうに座るその膝を軽く叩いて知らせてくれた。


「三枝さん、呼ばれてますよ!」


「え、なに、なに??」


ぱっと顔をこちらに向けて、呼んでいたのが俺とわかると明らかに瞳が楽しそうに輝く。
そんなに期待されても、息子さんからの伝言なんですが・・・苦笑いしながら手招きして、列から出てきてもらう。
三枝先輩の意図がよくわからないし、他の人に聞かれたら困るものかもしれないし。

お母さん方は気を使って、席を詰めてこちら側に2席分空けてくれた。
俺もここに座っていて良いんだろうか?
迷っていたら、三枝先輩のお母さんに「はよ座り!」と強引に腕をとられて一番端に腰を下ろした。


「で、なんかあったん?」

「三枝先輩から伝言を預かりました」


周りに聞かれないように「秘密かもしれないので」と、耳に手を添えて伝えようとしたら、三枝先輩のお母さんは俺が話し始めるより先に顔を離してしまう。
「もぉ~、カッコいい子に顔近づけられたらおばちゃんドキドキするわぁ」と、照れて少し赤くなった顔でバンバン肩を叩かれた。

試合前に伝えたいので、「すぐ済みますから!」ともう一度顔を近付けてなんとか伝えると。
その意図が図りかねて、困り顔。
「いらんことって・・・なんやろなぁ?」と尋ねられても、俺もわかりませんとしか言えないし・・・

コートに目を向けると、ベンチに座った三枝先輩がこちらを見て口パク。

『た・の・む・で』

お母さんを半目でジトリと睨んでいる。
三枝先輩のお母さんは、肩をすくめて首を振る。
それを見た三枝先輩は、「もおっ」と怒った顔をしたんだけど。

ふっと、しかめた顔のままなにかに気付いて視線を上げて。
ぱっと一瞬でその顔に花が咲いた。

ん?
何が・・・?
俺も三枝先輩のお母さんも、その視線の先を追って。
座席に向かう通路の先に、笹部先輩の姿を見つけた。
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