ヘタレαにつかまりまして ２

19 夏休み side 陸

9

で、だ。
結局、泣いた三枝に俺はどうも敵わない、かなり弱い。

俺のタオルを当てたまま、プール直結の救護室まで歩かせたんだが立ち上がらせるために出した手を離そうとしなかった。
三枝は椅子に座るように言われ、担当者から渡されたティッシュを鼻に突っ込み、小鼻を指で挟んで俯き止血。

最初は、処置さえ済んだら置いて帰るつもりだったんだが。
鼻づまりの声で「怒ったん？ごめん、俺、泳げへんくて」と謝ってくるし。
泳げねーのは元からだろうが。
そこじゃねーわと溜め息も出る。

よっぽど痛くて凹んだのか、三枝は止血中も隣に立っていた俺の手を離そうとしない。
諦めて、椅子を隣につけて完全に止まるまで待つしかねー

止血した後も、グズグズな顔で謝ってくるし。
怒ってねーと言っても信じない。
そこから着替えて、機嫌取りにホテル内のレストランで飯を食うハメになる。
さっさと帰るつもりだったが、こんな状態で別れたらこじれそうだしな。

群れに入れてる間は、そこそこな距離を保たねーと。
クリスマスの一件では、かなちゃんに仲介を頼んだからな。
またなんかあったら、かなちゃんがキャンキャン口を挟んでくるだろうし、そうすると菊川が出てくるのも目に見えている。

菊川、俺がかなちゃんを獲りに来てるとか。
マジねーわーなことを、本気で疑ってきてたからな。


「めっちゃうまーーーいっっ」


熱い熱いと大騒ぎしながら、ミートドリアを一口咀嚼し飲み込んだ三枝はパーッと泣きっ面を快晴にシフトチェンジ。
そーか、そーか、良かったな。

嫌われてるとわかってんのに、うっかり笑顔が移りそうになって悔しくなるほど旨そうに食べる。
俺も三枝と同じミートドリアセットプラス、ホタテ貝柱の香草グリル、子牛のピカタ、チョコレートムースを腹に収めた。