ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

文字の大きさ
上 下
494 / 911
18 運命の人

27

しおりを挟む
遥馬さんの声が、今度はずっと拒否していた清人さんの耳まで届いたようだ。
清人さんは、その答えを聞いて大袈裟なくらい深く息を吐いた。
そのまま指先から力が抜けて、遥馬さんの肩からだらりと手が落ちる。
やっと、遥馬さんが自由になった。


「あの、清人、本当に本当にごめんなさい。
理由がわからなくて、ずっとイライラしてて」


俯いた清人さんの顔を見上げ、一生懸命に謝る遥馬さん。
自由になった分を埋めるように、自分から近づいていく。

「ごめんなさい」を繰り返して、清人さんの顔を挟むように手を伸ばす。
清人さんは、甘えるようにその掌に頬を擦り寄せた。
ヤマと俺は、清人さんの重苦しい空気が緩和されて一安心。
だが、ヤマは足に力が入らないらしく、立つことは諦めてその場に腰を下ろしてしまった。


「そんなに、酷かったのか?」

「酷かった!
今までで最悪に酷かったんじゃないかな・・・全身にまとわりついてきて、力任せに絞られてくっていうか。
かなり気力を持ってかれてる。
瞬間的な攻撃力は低いんだけど、じわじわ四方から蝕まれてくのが気持ち悪くって。
兄貴は、遥馬さんが関わると本当にヤバイ」


逆プロポーズ後に結婚して、落ち着いたと思ったんだがなぁ・・・嫌いという言葉が、清人さんにはよっぽど堪えたのか。
直接本人に尋ねる勇気もなく、陽太さんから聞いていたしな。
お疲れ様、とヤマの頭を撫でる。
負担にならなければ、抱き締めてその優しさを労いたい。
ヤマが清人さんの八つ当たりのようなフェロモンに本気で抵抗していたら、きっと俺はこの場にいられない規模の兄弟喧嘩が始まってたはずだ。

ヤマは、俺に笑いかけてから諦めた顔で清人さんの横顔を眺めている。
一方の清人さんは、その視線にすら気付かない。
ヤマの受けたダメージなんて、清人さんには些細なこと、いや、無いも同然なんだろうな。
全くこちらを見ずに、遥馬さんに「ハル、名前を呼んで」と甘い声を響かせて。
顔を近づけ、鼻先で遥馬さんの鼻を擽っている。
さっきまでと、別人のように熱を帯びた視線に傍観者の俺もゾクリと背筋が震えた。


「清人?」

「ん~ん、ソレじゃない。
ね、俺を安心させて?」

「え・・・こ、ここで?」

「ハル、お願い」


ヒソヒソ話してますが、清人さんと遥馬さんのすぐ近くにギャラリーが三人もいますよ。
丸聞こえですよ。
これは、完全に見せつけられてるぞ。
しおりを挟む
感想 961

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

処理中です...